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「あれんじ」 2014年7月5日号

【四季の風】
第26回 泉

 泉といえば、水の湧き出るところ。たとえば「長命水」というように、いのちのシンボルみたいにこんこんと湧く、いかにも涼しげな、夏の季語です。

 「泉」の語源は「出(い)づ水(み)」ですが、私は「泉」の季語から、どうも洋風の印象を受けます。それは、私がこの季語から西洋画をイメージしたからかもしれませんが、何より私が最初に出会って感動した次の句のせいでしょう。

いのち短し泉のそばにいこひけり 野見山朱鳥(のみやまあすか)  

 一方で雄々しく若々しくロマンティックで、他方病がちで薄命で美しい、朱鳥らしい句です。実は朱鳥は若いころ画家をめざしたほどでしたから、この句の美意識は洋画につらなるもののように思われます。

 私は、南阿蘇の白水の明神池や熊本市内の柿原の養鱒場などの名水を吟行しますが、朱鳥に憧れて、こんな句を作ったこともあります。

泉あり使徒のごとくに集ひけり 岩岡中正

握手するやうに泉に手をひたす   〃

 この「泉」ですが、「噴井」にも近い季語です。たとえば、名水の里・江津の生まれの中村汀女には、水の名句がたくさんあります。

冷し瓜揺れ別れたる噴井かな 中村汀女