【熊遊学(ゆうゆうがく)ツーリズム】
有機化学の醍醐味 フラスコ内で未知との遭遇!
先端の研究者をナビゲーターに、熊本の知の世界を観光してみませんか! 熊本大学を中心に地元大学の教授や准教授が、専門の学問分野の内容を分かりやすく紹介する紙上の「科学館」「文学館」。それが「熊遊学ツーリズム」です。第25回のテーマは「有機化学」。さあ「なるほど!」の旅をご一緒に…。 取材・文/宮ア真由美 |
はじめの一歩 |
最初「有機化学」というジャンルは、あまりピンと来ませんでした。「有機」と「化学」は、かけ離れたイメージだったからです。ネットで調べると、有機化合物の製法や構造などについて研究する化学の分野だとか。さて、どんなお話が聞けるのか、まっさらな気持ちで研究室に向かいました。 |
【Point 1】「イオン反応」と「ラジカル反応」 |
化学という学問では、自然界のすべてを物質としてとらえます。動物や植物などの生命体も細かい分子の結合体。私たち人間の体も分子の結合体で、その分子は主に炭素と水素、酸素、窒素でできており、これに少しだけイオウやリン、金属イオンが含まれています。分子はもっと細かく分ければ原子や電子、さらに細かくすると素粒子でできています。しかし、分子単位でないと物質として機能しないので、化学では主に分子までを取り扱います。 |
【Point 2】炭素ラジカルを使って、新しい有機化合物を合成 |
ラジカルは大変不安定なので、安定になろうとして極めて速いスピードで反応します。そのため、反応の制御が難しく、化学者はラジカル反応を使うことを敬遠しがちでした。しかし、西野教授は逆転の発想をしました。不安定ということは、裏を返せば活性である(化学反応性に富む)と考えたのです。こうして、炭素同士を結合させるのに炭素ラジカルを使うという研究が始まったのです。 |
【Point 3】炭素同士がつながった「環状化合物」の合成 |
炭素同士の結合の多様性は無限ですが、自然界では長く連なっていくのが普通です。ところが、西野研究室では炭素同士が頭としっぽでつながって丸い輪になったさまざまな形の有機化合物が作り出されています。反応が起こる時に、少しエネルギーを加えてやると輪(環状)になるといいます。 |
【Point 4】新規有機化合物の可能性 |
現在、西野研究室では年間200〜300種類の新規有機化合物が作り出されています。教授が発見した反応を使えば、最大100角形までの分子構造を持つ有機化合物が作れるようになりました。 |
【なるほど!】 |
【図1】スピロ化合物
構造が面白く、自然界にも多数この骨格が存在する 有機化合物の中には人類に貢献できる有用な物質も少なくないことを知り、改めて「有機化学」という分野の重要性をかみしめました。世の中の役に立つには、薬学や工学など実学の分野への橋渡しが不可欠ですが、その基礎の基礎がしっかり研究されてこその社会還元です。西野先生ガンバレ! |
【図2】プロペラン類
構造が面白く、自然界にもこの骨格が存在する |
【図3】大環状化合物
構造や機能性に興味あり。3員環から100員環まで合成できた |
【図4】有機過酸化物
どちらも抗マラリア活性や抗菌活性、鎮痛作用等をもつ化合物の基本骨格 |
ナビゲーターは |
熊本大学大学院自然科学研究科
理学専攻化学講座 西野宏教授 化学は、サイエンス(理学)の中で唯一モノが作れる学問です |