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【四季の風】第25回 菜の花
これも夕暮れの句。家々の灯を「菜の花いろ」と見た。菜の花にはどこか、郷愁のようなものがひそんでいる。 私は小学生のころ、よく菜の花の道を通って祖母の家におつかいに行ったものだ。子どもには遠かったが、今にしてみれば何のことはない。歩いてほんの十五分。夕食など済ませて、帰りは祖母が懐中電灯を持たせてくれた。 緑川に近いその家には、気丈な祖母と、新婚のころ戦争で夫を亡くした伯母とその一人娘の三人が、明るく暮らしていた。美しかった伯母は郵便局に勤めていたが、その菜の花の小さな家も、今はもう跡形もない。 この伯母も、亡くなってもう八年。今、俳句が好きだった伯母の句集を編んでいるところである。 食細き人を悼(いた)みて花菜漬(はななづけ) 岩岡中正