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「あれんじ」 2010年4月3日号

【専門医に聞く 元気!の処方箋】
「ヒマン」のヒミツ 〜神様は“肥満”を想定していなかった!?〜

活動的な春が来ました。「あれもしたい、これもしたい」と新たな計画に心弾みますが、あなたの体、重くなってはいませんか? 
肥満が原因の一つとなる多くの生活習慣病を防ぎ、よりイキイキと暮らせるように、「元気!の処方箋」の第1回は「ヒマンのヒミツ」に迫ります。

糖尿病患者が年70万人ずつふえる時代に

 「人間を作った神様が想定しなかったことの一つが、肥満(※1)ではないでしょうか」。熊本大学大学院生命科学研究部代謝内科学分野の荒木栄一教授によると、「肥満は、長い人間の歴史の中で、例えば日本ではここ数十年に起きてきたこと」。飢餓との戦いだった人の歴史は、体にできるだけ“蓄える”仕組みを生かして、生き残ってきたわけです。それが、こんなに食べ物が豊富にあり、消費するエネルギー以上に食べ過ぎるという行為が起きるようになって生まれた産物が「肥満」というわけです。
 肥満が原因の一つとなる病気は、たくさんあります。糖尿病(1型を除く)、脂質異常症(家族性脂質異常症を除く)、高血圧、動脈硬化が原因となる虚血性心疾患など生活習慣病といわれる病気の多くや、変形性関節症などの痛みを伴う疾患までさまざまです。特に、一般に糖尿病という場合の2型糖尿病(糖尿病の95%を占める)は、「1年に70万人ずつ増えています。これは、およそ熊本市の人口と同じ。毎年、それだけ多くの人たちが糖尿病になっている上、発症年齢が若年化する傾向にあります」と、荒木教授は警鐘を鳴らします。


驚き!!脂肪細胞から”食欲を抑える”ホルモンが!?

 ここで、「ヒマンのヒミツ」にかかわる脂肪細胞に目を向けます。「余分なエネルギーを蓄え、クッション機能で大事なものを守る」という働きをしていると考えられていた脂肪細胞が、実はホルモンを出し、積極的に代謝にかかわっている組織だということが、15年ほど前に分かってきました。「脂肪細胞からだけ分泌されるレプチンというホルモンは、大きい脂肪細胞からはたくさん出て、小さい脂肪細胞からはあまり出ません。レプチンがたくさん出るようになると、『もうこれ以上取る必要はありませんよ』という指令を出して、食欲を抑えるのです」
 なんて素晴らしいホルモンでしょう。しかし、それなら食べ過ぎによる肥満は起きないはず。「動物実験でその働きが確認されたレプチンですが、肥満の人には十分作用しないことが分かっています」とのこと。…大変残念ですが、これは人間が高等な動物だからこそ。例えば、おなかいっぱい食べても好物にはまた食欲がわく、いわゆる「別腹」は、人間だけに見られる現象だとか。野生動物はおなかが一杯になれば食欲は抑えられ、食べ過ぎることはありません。
 重要なことは「脂肪細胞は悪さもするが、よい生理的働きを持ったものも分泌している」ことが分かってきたこと。さまざまな研究が進み、例えばレプチンと同じような働きを持ち、肥満の人にも作用する物質ができれば、食欲をコントロールすることができる日が来るかもしれません。
をコントロールすることができる日が来るかもしれません。


「働く→基礎代謝アップ→太りにくい体」に

 しかし、今のところは、自分で食欲をコントロールし、肥満にならないように注意しなければなりません。よく「水を飲んでも太る」と言う人がいますが、そういう体質はあるのでしょうか。 「エネルギー消費に関するいくつかの遺伝子の違い(個性)によって、エネルギーを消費しにくい人もいれば、しやすい人もいるということは分かっています」と荒木教授。しかし、「消費エネルギーより多く食べなければ太りません」。―ということで、「水を飲んでも太る」ことはないハズなのです。
 そこで大事なのは、基礎代謝(※3)を上げること。基礎代謝が低いと脂肪が蓄
積しやすく、肥満の原因になります。
また、ある程度の時間で行う運動より、基礎代謝でのエネルギー消費が大きいのです。その上、「日ごろから体を動かす習慣のある人は基礎代謝が上がってくるので、太りにくいのです」。つまり、ゆっくりごろんとテレビを見ている人より、ちょこちょこ小まめに動く人の方が太らない…。「耳が痛い」という方、今日から気を付けましょう! さらに、有酸素運動などができればいいですが、仕事が忙しく運動する機会がないという方は、できるだけ階段を使う。通勤時のバスや電車で座らない。できれば一駅手前で降りて歩く。など、生活の中でできることを意識して行いましょう。


子ども時代の食生活が好みを決める

 年間に70万人ずつ増えているという糖尿病。肥満はその大きな要因です。荒木教授は、毎年それだけ多くの人が病気になっている問題の大きさとともに、以前は50歳代、60歳代で発症することが多かった糖尿病が、今は30歳代で発症する人もいるという「発症の若年化」の問題を指摘します。これは幼い頃からの食生活やそれによって定まった嗜好によって累積された体の負担が、糖尿病の発症につながっているのではないかといいます。
 太りやすいかどうかは遺伝的なことだけでなく、食べ物の嗜好や運動習慣など、その「家」で受け継がれるものも大きいのです。例えば、コレステロールの多い物はうま味をもたらすため、幼い頃から食べつけると、どうしても食べたくなってしまうそう。「おじいちゃんやおばあちゃんが糖尿病なら、自分の子どもや孫にはそうならないように、食事や運動に気を付けるよう伝えてほしい」と荒木教授は話します。また、子どもの食事を準備するお母さんたちには、「子どもの将来にわたる健康を担っているのだという気持ちで、食事に気を配ってほしい」とも。
 肥満を防ぐ食事のポイントは、

■米飯を主食とした和食で
■おかずは少なめ、なるべく動物性の油や脂肪を取らない献立を
■よくかんで、ゆっくり食べる


とのこと。欧米化した現代の食生活では少し難しくなっていることかもしれませんが、「欧米の人はBMIが30を超えると糖尿病を発症しやすくなるのに対し、日本人はBMIが25程度で発症します。それだけ少しの肥満で生活習慣病を起こしやすい特徴があるということを知っていてほしい」と、荒木教授。自分たちの体のことを知り、できることから取り組んで、健康に楽しく暮らしたいものです。


熊本大学大学院生命科学研究部
代謝内科学分野
荒木 栄一教授
内科指導医・内科認定医、糖尿病研修指導医・糖尿病専門医、内分泌代謝科指導医・内分泌代謝科専門医、老年医学会指導医