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「あれんじ」 2014年3月1日号

【専門医が書く元気!の処方箋】
そろそろ体を動かそう!〜有酸素運動と健康

 少しずつ春の気配が感じられるようになってきました。体を動かすのがおっくうだった冬の間に運動不足になってはいませんか?
 そこで今回は、「そろそろ体を動かそうか」という皆さんのために、「有酸素運動と健康」についてお伝えします。

有酸素運動とは

 有酸素運動という言葉を耳にされたことはあるかと思います。医学的には運動において筋肉細胞がエネルギーを得る際に酸素を用いている状態をいいます。具体的にどのような運動かというと、私たちが日ごろ体を動かす運動、例えば、家庭内での家事や掃除、洗濯など忙しく体を動かすものはすべて有酸素運動です。「10〜20分以上継続して行える比較的楽な運動」とご理解いただければよいでしょう。散歩やウオーキング、ジョギングはその代表的なものです。
 有酸素運動は脂肪を分解し、血管を柔軟でみずみずしい状態に保つ効果があり、これが体重の減少(減量)や病的状態の改善、健康レベルの向上につながります。ただし、このような効果を得るためには、日常生活レベルの活動量では十分とはいえません。ある一定時間の運動(少なくとも30分以上)を定期的に(週に2、3回以上)、そして継続して(少なくとも数カ月以上)行う必要があります。
 活動のエネルギー源として私たちの体は糖分と脂肪を使いますが、脂肪は分解されにくく減りにくい特性があり、脂肪を減らすためには運動の継続性が大切です。


有酸素運動による生活習慣病の予防・改善

 食習慣、運動習慣、飲酒・喫煙習慣などの生活習慣に起因して生じる疾病や身体の不調を生活習慣病といいます。
 不適切な食習慣(食べすぎ、飲みすぎ)や運動不足、ストレス、喫煙などが原因で肥満や高血圧、高脂血症、糖尿病などの症状をきたし、脳卒中や心臓疾患、がんなどの発症リスクが高まります。
 また、おなか回りが男性85p、女性90p以上で、高血圧、高脂血症、糖尿病のうち2つ以上に該当する場合をメタボリックシンドローム(症候群)といいますが、これはかなり危険な状態といえます。そうなる前に、またこれ以上悪化させないためにも、日頃から運動習慣を身に付けることが大切です。
 なぜ有酸素運動が重要か。それは、健康な人の心身の健康を保持・増進することはもちろん、有酸素運動が生活習慣病やメタボリックシンドロームを予防・改善する効果があり、さらに高齢者にみられる骨粗しょう症の進行や、加齢による筋量や筋力の低下を遅らせる効果があるからです。
 また、有酸素運動により精神的ストレスの解消や爽快感、達成感を味わうことができ、メンタルヘルスの向上にも有効です。適切な量と質・バランスの取れた食事とともに、適度な有酸素運動を生活の一部として継続し、習慣化することにより、QOL(生活の質)の高い充実した生活を送ることが期待できます。


有酸素運動の頻度と具体例
【図1】運動の実施頻度と健康・体力レベルの意識調査(20〜79歳女性)

 「大いに健康である」、「体力に自信がある」と答えた人では運動を「ほぼ毎日」または「ときどき」行っている割合が高く、逆に「あまり健康でない」「体力に不安がある」と回答した人では運動を行っている割合は低い。

 では、有酸素運動をどの程度実行すればよいのでしょう。厚生労働省の「健康日本21(第二次)」の運動基準・運動指針報告書では、

■18〜64歳の日常生活および運動基準として
 歩行またはそれと同等以上の身体活動を毎日60分行い、さらに息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行う

■65歳以上の生活活動・運動の指針として
 どのような活動でもよいので身体活動を毎日40分以上行う

ことを推奨しています。
 個々人の年齢や健康状態、体格や体力レベル、運動習慣レベルなどに応じて運動の種類や時間、週当たりの回数は柔軟に考えてよいと思いますが、どの年齢層においても具体的な運動の目安としては、1日30分以上の運動を週2〜3日以上行うとよいでしょう。
 図1は「運動を行う頻度」と「健康・体力レベル」との関係を示したものです。「大いに健康である」「体力に自信がある」と答えた人ほど運動している頻度が高く、運動を行うことで健康や体力に自信が持てるという結果になっています。逆に「健康や体力に自信がない」と回答した人ほど運動を行っていない割合が高くなっています。
 どのような運動がよいのかについては、一人ひとりの好みや生活環境、経済状態に応じて選べばよいでしょう。ストレッチや柔軟体操はご自宅で手軽にできますし、ウオーキング、ジョギングは朝晩ご自宅周辺ですぐにでも始められ、経済的です。
 体力・健康レベルの向上や減量といったしっかりした目標を達成したい方は、スポーツジムで専門のインストラクターの指導を受けられることをお勧めします。さまざまな種類の器具や運動メニューもそろっており、きちんとトレーニングを積めばかなりの効果が期待できます。
 卓球やテニス、グランドゴルフ、ゲートボールなどは比較的体への負担が少なく、体力レベルに応じて球技・競技としての楽しみ(技を磨く、戦術・戦略を考える、ゲームを行う、勝ち負けを競うなど)を味わうことができるでしょう。
 水泳は腰や膝への負担が少なく、全身の筋肉を使用し、水の刺激が体温調節や血液の循環に優れた効果を発揮します。
 近年、中高年の間で人気が高まっている登山やハイキングは、安全に心がけて行えば、心身両方の健康にかなり効果的だと思われます。


【図2】食事制限と運動を組み合わせた減量法の効果

 「食事制限」による体重の減少は、体脂肪の減少よりも筋肉量(除脂肪体重)の減少に大きく依存している。一方、「食事制限」と「運動」を組み合わせることにより、筋肉量を落とさず、体脂肪を減らすことで減量に成功していることがわかる。


効果的なダイエット(減量)の方法

 おなか回りが気になる中高年の方で、体重を減らしたいと思っている方はたくさんいらっしゃると思います。いわゆるダイエットですが、その方法としては食事制限によるもの、運動によるもの、その両方を組み合わせる方法などがあります。
 理想的なダイエットは、筋肉量を維持したまま脂肪量を落とす方法です。図2は体脂肪率が約38%の肥満男性27人が、「食事制限」群と「食事制限+運動」群に分かれて8週間ダイエットした場合の体重減少の内容を示したものです。運動は1日22〜46分のウオーキングまたはジョギングと簡単なレジスタンス運動(腕立て伏せのように筋肉に負荷をかける動作を繰り返す運動)を週3回行っています。
 結果を見ると、両群ともに減量前に比べ体重は減っていますが、食事制限群では脂肪はあまり減らず、除脂肪体重(=筋肉量と考えてよい)の減少量が多いことが分かります。これでは理想的なダイエットとはいえません。
 一方、食事制限+運動群では筋肉量をあまり減らすことなく、脂肪を減らすことで体重を落としていることが分かります。運動の効果がはっきり出ています。
 体重を減らす難しさは皆さんよくご存じかと思いますが、食事と運動の両方で体重増加に歯止めをかけ、ゆっくりと減量してはいかがでしょうか。


おわりに

 有酸素運動が健康に優れた効果があることは十分分かってはいるけど、なかなか始められない、続かないという方はたくさんいらっしゃるでしょう。これから気候もだんだん良くなりますので、これを機に改めてチャレンジしてみてはいかがでしょう。最後に私の恩師の言葉を記して本稿をおわります。”Never too late” …いくつになっても、何かを始めるのに遅すぎることはありません。


今回執筆いただいたのは
熊本大学教育学部保健体育科
大石 康晴教授

筑波大学卒業・同大学院修了
学位:医学博士
専門分野:スポーツ生理学
   筋生理学