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「あれんじ」 2014年2月1日号

【専門医が書く元気!の処方箋】
更年期を乗り越えよう

 女性にとって、ある一定の年齢になると気になるのが更年期障害です。そこで今回は、卵巣で作られるホルモンの働き、更年期障害と関連疾患、治療方法、対策について紹介します。

はじめに
【図1】更年期と老年期の位置づけと血清のエストロゲン値との関連

 女性のからだは、卵巣から作り出されるホルモンであるエストロゲンによって、さまざまな恩恵を受けています。40歳代になると卵巣は徐々に機能しなくなり、この恩恵は失われていきます。この失われていく過程を更年期といい、これを上手に乗り越えることは、更年期だけではなく、その後の人生をも快適なものにします(図1)。


エストロゲンとプロゲステロン〜卵巣から産生される2つのホルモン〜
【図2】卵巣から作られるホルモンと子宮内膜の関連

 子宮や卵巣といった女性の生殖臓器は、妊娠を成立させ、胎児を育てる役割を担っています。
 子宮の内腔は内膜で裏打ちされており、これが剥がれることを月経(生理)といっています。月経の後、子宮内膜を増殖させるエストロゲンが卵巣で産生されます。月経後、2週間ほどすると排卵が起き、今度は卵巣からエストロゲンの働きにブレーキをかけるプロゲステロンが分泌され、子宮内膜は増殖を止めます。妊娠しないと、2週間ほどで月経が起き、同じことが繰り返されます(図2)。
 このように、子宮はエストロゲンとプロゲステロンにより巧みに調整されています。


女性ホルモンとしてのエストロゲン

 エストロゲンは子宮に働くだけではなく、妊娠・出産に耐えられるように、からだ全体を調整する働きも担っています。そのため、脳神経系、心臓血管系、肝臓、乳腺、皮膚、筋肉、脂肪、骨といった全身のあらゆる部位の細胞にエストロゲンの受け皿となる受容体が存在します。
 こうした部位は、妊娠時だけではなく、エストロゲンが作り出される間、絶えず影響を受けることになります。エストロゲンは、子宮に働くように、いろいろな臓器で細胞を活性化させます。乳房の発育や皮膚の若々しさもエストロゲンの働きが担っており、女性ホルモンと呼ばれるゆえんとなっています。


更年期と更年期障害
【図3】更年期障害の諸症状

 更年期は、エストロゲンの影響を受ける性成熟期から老年期への移行期をいいますが、医学的には閉経の前後の5年間を合わせた10年間と定義されています。閉経を迎える年齢は45から55歳の間で、平均で50歳です(図1)。
 エストロゲンの影響を受けなくなっていくことで、全身のさまざまな部位で変化を生じます。これには個人差があり、こういった変化を感じない場合がある一方で、生活の上でトラブルとして自覚することがあります。後者を更年期障害と呼んでいます。
 典型的な症状は、自律神経失調による顔の火照りで、ホットフラッシュともいいます。首回りの緊張から来る後頭部痛や肩凝りもそうです。喉の違和感、動悸、発汗、耳鳴り、めまい、手足の冷え、疲れ、不眠といった訴えもあります。また、イライラ感や気分の落ち込みといった精神的な症状の訴えもみられます(図3)。
 更年期は、社会的ストレスを受けることの多い時期とも重なっており、更年期障害は単なるホルモンによる影響だけではなく、社会的要因も加わって症状が現れることが多いようです(図4)。


【図4】更年期障害の概略


メタボリック症候群と骨粗鬆症〜更年期に関連する疾患〜

 エストロゲンはからだのエネルギーの代謝を高めています。更年期になると、この分のエネルギーの消費がなくなり、同じような生活をしていても太りやすくなり、血圧も上がり始めます。また、肝臓での脂質代謝にも関わっており、これがなくなると血液のコレステロール値が高くなりやすくなります。
 こういった肥満、高血圧、高脂血症は、メタボリック症候群とも呼ばれ、男性では年齢に比例して増加していきますが、女性では更年期を境に急増するといった特徴があります。
 骨がもろくなり骨折しやすくなる骨粗鬆症も更年期と関連があります。エストロゲンが骨をつくり壊れにくくする作用を担っているからです。性成熟期には骨の密度は安定していますが、更年期に入ると骨密度が低下し、骨粗鬆症へと向かっていきます。


ホルモン療法、漢方、カウンセリング〜更年期障害の治療〜
【図5】更年期障害の治療

 更年期障害の原因となるホルモンの低下を補う治療をホルモン補充療法といいます。
 40、50年前に、エストロゲンだけを使う補充療法が行われ、副作用として子宮体がんが多く発生しました。その後、エストロゲンをブロックするプロゲステロンを加えて補充すれば子宮体がんの発生を防げることが分かり、2つのホルモンを併用した補充療法が行われるようになりました。
 このホルモン補充療法により更年期以降の女性が健康になれるのではないかという期待のもと、1991年から米国で大きな臨床研究が実施されました。しかし始まってみると、補充療法を長く続けると乳がん、脳卒中、心筋梗塞や血栓症のリスクが逆に高まることが分かり、2002年に研究が中断されるという残念な結果に終わりました。
 この結果を受け、むやみにホルモン補充療法を行わず、更年期障害で困っている女性に対してだけ、副作用に注意しつつ、期間を限定して行うようになりました。こうした管理下でのホルモン補充療法は決して怖いものではないことが分かり、いったん下火になったこの治療法が再び広まりつつあります。
 ホルモン補充療法以外に、症状が比較的軽い場合には、漢方薬などからだ全体の働きを高めることで治療するといったことも行われています。また、精神的ストレスが加わっている場合も多く、専門のカウンセリングを受けることで、更年期障害が和らぐことも多々あります(図5)。


日常できる対策

 更年期の原因となるエストロゲンを病院に行かなくても補える方法があります。
 もともと、日本人は欧米人と比較して更年期障害が少なく、しかも長寿であることが知られています。これは、日本人が豆腐や味噌汁など大豆を多く食する習慣のためだと考えられています。
 大豆は植物性エストロゲンであるイソフラボンを豊富に含んでいます。近年、食生活の欧米化とともに大豆の摂取量が減ってきていますが、これをしっかりと摂取する習慣をつけることが更年期を乗り切る一つの手段です。
 大豆を食べない米国では、イソフラボンがサプリメントとして広く普及しています。これを受けて、日本でもイソフラボンのサプリメントが出回っています。適量をサプリメントとして摂取することは良いのですが、過剰摂取による健康被害も出ています。
 食品安全委員会より、大豆イソフラボンは、食事を含めた全体として1日あたり75rまでを、そのうちサプリメントとして30rまでを目安に摂取すると良いとされています。
 サプリメントをいくつも服用している場合に、それぞれにイソフラボンが含まれていて知らないうちに過剰摂取となっていることがありますので、注意してください(※参考)。
 更年期以降に急増するメタボリック症候群を予防するためには、エストロゲンに頼っていたエネルギーの消費分を補うために運動をする習慣を身につけることが大事です。筋力や関節の働きも低下してきますので、ストレッチ体操も取り入れると良いでしょう。カロリーや脂肪分を抑えた食生活への切り替えも忘れてはなりません。
 また、大豆の摂取に加えカルシウムやビタミンDをしっかり取ることが、骨粗鬆症を防ぎ、寝たきりの原因となる骨折を避ける術ともなります。
 さらに、精神的なストレスを緩和するために、アロマテラピーも良いとされています。何か自分の趣味を見つけて没頭するのもストレス軽減となり、更年期障害の予防へとつながります。

※参考 食品安全委員会「大豆及び大豆イソフラボンに関するQ&A」 ホームページhttp://www.fsc.go.jp/sonota/daizu_isoflavone.html


おわりに

 日本の女性の平均寿命は86歳を越え、人生の半分を自らのエストロゲンに頼らずに生活していかなければなりません。
 食生活の見直し、適度な運動、ストレス発散といった日常生活の工夫で更年期をうまく乗り切り、こうした生活習慣を持続することは、更年期以降の半生をも快適に過ごす手立てとなります。
 それでも起きてしまう更年期障害に対しては、産婦人科医と相談し、適切な治療を受けることが勧められます。


熊本大学医学部附属病院 
地域専門医療推進学寄附講座
産科婦人科
田代 浩徳特任准教授

日本産科婦人科学会専門医 
日本婦人科腫瘍学会婦人科腫瘍
専門医