【熊遊学(ゆうゆうがく)ツーリズム】
生命活動に欠かせない 細胞間コミュニケーション
先端の研究者をナビゲーターに、熊本の知の世界を観光してみませんか! 熊本大学を中心に地元大学の教授や准教授が、専門の学問分野の内容を分かりやすく紹介する紙上の「科学館」「文学館」。それが「熊遊学ツーリズム」です。第23回のテーマは「細胞間コミュニケーション」。さあ「なるほど!」の旅をご一緒に…。 |
【Point 1】「細胞間コミュニケーション」とは? |
多細胞生物は、さまざまな細胞同士で連絡を取り合いながら生命活動を維持しています。脳の神経細胞の指令が筋肉の細胞に伝わったり、逆に、目や耳から入ってきた情報が脳細胞に伝わったり、私たちの体内では常に細胞間でいろんな情報が行き交っています。離れた細胞から細胞へと情報が伝わるだけではなく、例えば心臓の隣り合った心筋細胞同士もコミュニケーションを取り合いながら動いているのです。「もし、心筋細胞が連絡を取り合わずに勝手な動きをしていたら、全体の収縮がうまくできずにマヒ(心室細動)を起こしてしまいます。細胞間にコミュニケーションが成立しているからこそ、細胞の集団として機能しているのです」と、熊本大学大学院自然科学研究科の佐藤栄治講師は語ります。 |
【Point 2】「化学シナプス」と「電気シナプス」 |
神経細胞から他の細胞への情報は、ギリシャ語で「つなぐ」という意味の「シナプス」という特殊な構造をしたつなぎ目を介して伝達されます。そのつなぎ目はぴったりつながっているわけではなく、わずかなすき間があります。そのすき間を通して、細胞から細胞へと神経伝達物質を放出して情報を伝えているのです。情報伝達に化学物質が介在しているので「化学シナプス」と呼ばれています。ただし、化学シナプスを通した情報伝達には時間がかかります。 |
【Point 3】「電気シナプス」とは? |
「電気シナプス」とは、細胞同士が直接「ギャップ結合」という構造によって結合して信号を送り合う仕組みです。60年代から80年代にかけて、ギャップ結合の電気的な機能の研究が行われましたが、90年代に入るとタンパク質分子のアミノ酸配列の研究が盛んになりギャップ結合の分子構造の解明も進んできました。 |
【Point 4】「ギャップ結合」の電気生理学的機能 |
細胞が刺激を受けて興奮する過程で、細胞膜のイオン・チャンネルを介してナトリウム・イオンや塩素イオンが入り、カリウム・イオンが出ていきます。このイオン交換によって電位の変化が生まれます。これが活動電位で、電気信号情報になります。この興奮した細胞とその隣の細胞の間にギャップ結合があるとそこを通ってナトリウム・イオンとカリウム・イオンや塩素イオンの相互の移動が起きるので隣の細胞に興奮状態、つまり電気信号が伝わることになるのです。佐藤講師は、ギャップ結合の電気生理学を発生学と結びつけて研究しています。このような研究者は日本では他に例がなく、世界でも3〜4人しかいないといいます。 |
【なるほど!】 |
私たちの行動の一つひとつが、体内の化学変化と電位の変化によって制御されているというのは複雑な気持ちですね。でもこれらの発見が、未来の病気の治療法にもつながる可能性を考えると、生命現象の解明がもっと深く進んでほしいと願わずにはいられません。 |
【メモ1】あなたが見ているのはどんな色? |
動物に色を見せながら視神経や脳の視覚野の活動電位を測定すると、その動物が何原色でものを見ているかが分かります。正確には赤にはその色合いにバラツキがあります。人間は赤・緑・青の3原色でものを見ています。イヌやネコ、ウシなどのほ乳動物は赤と青の2原色。牛が闘牛士の赤いマントに反応するのは赤い色がはっきり見えるからなのかもしれません。 |
【メモ2】感情や性格、行動まで制御する化学信号や電気信号 |
脳内の伝達物質は、私たちの感情や性格、健康状態まで左右しています。 |
ナビゲーターは |
熊本大学大学院自然科学研究科(理学専攻)
生命科学コース 佐藤栄治講師 細胞間のコミュニケーションを、発生学と電気生理学の両方から研究しています。 |