【専門医が書く 元気!の処方箋】
変貌(へんぼう)しつつある関節リウマチの治療 〜メトトレキサートと生物学的製剤
日常生活ばかりでなく生命をも左右する関節リウマチは、かつて「治らない難病」と呼ばれていました。しかし、抗がん剤メトトレキサートの応用と生物学的製剤の出現により、その治療法は大変革を遂げつつあります。痛みを取る治療から、症状がなくなり服薬を必要としない治癒を目指す治療に変わってきている関節リウマチの治療についてお伝えします。 |
はじめに |
関節リウマチは、日本に70〜100万人の患者がいるといわれ、男女比は1対3、好発年齢は30歳から50歳です。 |
【コラム】 |
歴史的な有名人にも関節リウマチを患った人たちがいます。山上憶良は万葉の歌人ですが、「痛き傷に塩を注ぎ、短き木の葉を切る」という歌の一節があります。印象派の画家ルノアールもすばらしい絵画を数多く残しましたが、晩年は車椅子で、絵筆を包帯で手にくくりつけて絵を描いている写真があります。 |
生物学的製剤とは |
バイオテクノロジーで作られた薬のことで、過剰な炎症反応を起こさせている分子に対して抑制作用を示し、炎症を鎮静化して治癒に導くものです。 |
新しい診断基準による早期診断と治療 |
【図5】
2009年に発表された欧米の関節リウマチ(RA)の予備的診断基準 関節リウマチをなるべく早期に診断し、早期に治療を開始することで病態をコントロールしていくことを目的に作られたものである。現在わが国で検証が行われている。左は診断に至るまでの方向性を示し、下は新基準を用いた診断のための4重要項目(CCP:環状シトルリン化ペプチド) 2009年にアメリカリウマチ学会とヨーロッパリウマチ学会が共同して、関節リウマチの新予備診断基準を作りました(図5)。この基準の根底にあるのは、関節リウマチをできるだけ早期に診断し、持続的関節炎あるいは骨病変を来たす可能性の高い症例にメトトレキサートを用いた治療を開始することにより、関節破壊を阻止しようという考えです。人種差や治療環境の違いがあるのでこの基準を日本人に直接当てはめることができるかどうかまだ分かりませんが、日本でも早期診断重視という考え方に大きく変わりました。どのような病気もそうですが、早期診断・早期治療が重要なのです。 |
新しい治療法の光と影 |
メトトレキサートは、葉酸拮抗(きっこう)剤と呼ばれるもので、その強いDNA合成阻害作用からがんの治療に用いられてきました。そのメトトレキサートが関節破壊の進行を止めることが分かってきたのです。恐らく炎症性滑膜の増殖を抑えているのでしょう。メトトレキサートを使わない関節リウマチ治療は、今では考えられないほどになっています。メトトレキサートの3大有害事象(副作用)は肝機能異常、骨髄抑制、間質性肺炎です。しかし、これらはどれも防ぐことができます。定期的に採血検査をして肝機能や造血に異常がないかを確認し、発熱・空咳・呼吸困難感などの症状があるときはすぐに主治医に連絡します。それらは間質性肺炎の症状だからです。 |
治療におけるキーワードは連携 |
リウマチ膠原病は全身性疾患で図2に示したように、肺にも心臓にも腎臓にも眼にも病変が現れる可能性がありますので、病期に応じていろいろな診療科の専門医師による集学的治療、つまり一人の患者を多診療科で診てゆくという態勢が必要です。そのためには、医師同士また医療機関同士の連携がとても大切です。また、かねてから患者と医師間の良い関係を築いておくことがぜひとも必要です。 |
【アドバイス】 |
◎情報収集について |
おわりに |
今や関節リウマチは、早期に診断し強力に早期治療を行うことで、薬を必要としない治癒に至ることも夢ではなくなってきつつあります。関節リウマチと診断されても、決してあきらめずに、自分のライフスタイルを守り、できることを探してください。適切な治療で普通に生活できます。そのためにも、関節リウマチという病気、診断、検査、治療、専門医や福祉制度などに関するさまざまな情報を得て、ご自分の状態を正しく理解する必要があります。 |
熊本リウマチセンター・
熊本整形外科病院 リウマチ膠原病内科 中村 正 医師 日本内科学会認定医、日本リウマチ学会指導医・専門医、日本血液学会指導医・専門医、米国リウマチ学会国際メンバー、日本リウマチ学会評議員、九州リウマチ学会運営委員、日本炎症・再生医学会評議員、熊本大学医学部医学科臨床教授 |