あれんじのページ

「あれんじ」 2013年12月7日号

【専門医が書く元気!の処方箋】
若い女性に多い 痔の病気

 なかなか人前で話題にしづらい「痔」。しかし、若い女性や出産後などに悪化させる人も多いそうです。 そこで今回は、若い女性に多い痔の原因と予防や対策、治療法についてお伝えします。

10代の女性に多い切れ痔の原因は?

 若い女性、特に10代の女性は他の年代の女性や同世代の男性に比べて圧倒的に切れ痔が多いのが特徴です。その原因は…。


女性ホルモンの影響

 痔が発症する肛門は、実は皮膚の一部なのです。10代後半になると女性ホルモンが活発になる関係で、表皮の成長と老化(角化)が男性に比べて遅く、皮膚は子どもの時と同じように皮脂層に富んでおり、柔らかくスベスベしています。反面、保護機能を担うケラチンの層がまだ薄く、他の年代に比べて感染を起こしやすい傾向にあります。

●人が立って歩くため

 犬や猫を見れば分かるように、もともとほ乳類はお尻が心臓より高い位置にあります。だから、心臓からお尻へ行った血流はそのまま逆流することなく、心臓へ返っていきます。ですから、お尻の血管には逆流防止のための静脈弁がありません。
 このため、お尻は大切に扱わないと簡単にうっ血し、感染が起こったり、出血や脱出して痛むということが起こりやすいのです。


大切なゾンビ!?

 肛門の近くの皮膚も他の皮膚と同じく3層(表皮、真皮、脂肪層)からなっています。その3層は死んだ表皮細胞(ケラチン)によって覆われ、細菌からガードされています。つまり、細菌から見ると人間は“ゾンビ”みたいなもので、表面が硬い死んだ細胞で覆われており取り付く島がないのです。 ところが時々、清潔大好きの人がいて、必要以上に石けんを使って強く洗い過ぎると、この表面の層が薄くなって感染しやすくなります。
 例えば、“あかすり”と呼ばれるエステなどはあまりお勧めできません。なぜなら、表面の大切な層を剥ぎ落としているからです。
 体調がいいときは1日で3層は元に戻り、体をまたカバーしてくれます。しかし、体調が悪かったり強いストレスにさらされたりしていると、まず脳が大量のエネルギーを使用し、皮膚の回復は二の次となり、回復が遅くなります。
 これに生理が重なったりすると、肛門の皮膚が軽い感染を起こした炎症状態、例えて言えば軽いやけどのような状態になっていますので、ちょっとした便秘や下痢で傷がついたり細菌感染がひどくなったりして、少しずつ切れ痔へ進んでいきます。

●膣は乳酸菌が守っている!
 
 ちなみに、肛門に近い膣では同じ状態でも傷ついたりすることはめったにありません。
 膣内は個人特有(母親からもらった)乳酸菌でガードされているため、菌が入り込んで感染を起こすことができないのです。
 この各人別の乳酸菌は母親から代々受け継がれるもので、買ってきたヨーグルトを飲んでも役に立ちません。
 そして、その乳酸菌が、人の皮膚の表面にいる、その人特有の常在菌(皮膚直径1センチあたりに約5000匹)をコントロールしているのです。
 赤ちゃんが甘酸っぱい匂いがするのは、人の特有の常在菌叢(そう)が完成する(住み着く)までの間、乳酸菌の匂いがするためです。
 自分特有の常在菌と乳酸菌が強くなると皮膚は軽く湿って、艶のある美しい皮膚となります。


痔にならない、悪化させないための予防と対策

 では、皮膚をいい状態に保って痔にならない、悪化させないために乳酸菌と常在菌を強くするにはどうすればいいのでしょうか。

●ゴシゴシ洗わない

 毎日石けんを使ってゴシゴシ洗うと大切な常在菌や乳酸菌が減ってしまい、皮膚炎や痔に直結します。よほど汗や油で汚れた場合以外はなるべく石けんは少なくし、お湯で洗い流す程度が望ましいのです。

●長湯をしない

 人間の皮膚は高温・多湿には向いているのですが、あまり長湯すると脂が抜けて皮膚がアルカリ化し皮膚炎を起こしやすくなります。 長湯は大切な常在菌を減らしてしまいますので、痔の原因になると思って下さい(痔が腫れて痛みがあるとき、一時的に長湯で血行をよくして治療を行う場合は別ですが、これもあくまでも一時的です)。

●人それぞれの乳酸菌

 乳酸菌は代々、母親から娘へと受け継がれていきますが、数万年の間に土地や気候に合うように少しずつ変化しています。 日本人の利用しやすい乳酸菌はみそやしょうゆの中にいます。ちなみに韓国の人はキムチ、中国ではザーサイ、ドイツではザワークラウトに、という具合です。
 あまり異なる乳酸菌は皮膚炎やアレルギーのもとになります。良かれと思ってヨーグルトを連日好んで用いたりすると、まさかの切れ痔が起こりやすくなることを知っておいてください。


睡眠不足が痔を悪くする

 肛門の皮膚が長湯でアルカリ化しても、ヨーグルトで常在菌が減っても、なんとか持ちこたえていたお尻に睡眠不足が加わると細菌感染しやすくなり、疲れ、微熱、火照り等が出現します。
 ここまでくると最後の砦が崩されて痔主へと直結します。

●大切なホルモンの分泌

 皮膚の水分を保ち、カサカサしないようにするポイントはホルモンです。成長ホルモンが不足すると皮膚がカサカサになり、弱酸性からアルカリとなって、常在菌の力が弱まり傷がつきやすくなります。
 成長ホルモンは午後10時から午前2時くらいの睡眠中に分泌されます。この時間帯に十分な睡眠が取れないと、ホルモンの分泌が不足し、皮膚がカサつき、痔が切れるという状況が出てきます。

●野菜が痔を予防する

 若い女性はサラダバーを好んだり、野菜をたくさん食べようとします。これは、前述の原因による皮膚の不安定さを身体が取り返そうとしているからです。
 肉や魚よりも野菜を食べる方が基礎代謝が上昇するので、皮膚も弱酸性を取り戻し、カサカサしにくくなります。また野菜は、腸内細菌のエサでもあります。腸内細菌が安定し、便通が良くなると痔の悪化も防げます。


「こんなとき、どうすればいい!?」〜知っておきたい治療

●悪化して痛い、出血のとき

 不幸にして切れ痔や肛門ポリープができてしまった時はどうするか。 狭く硬くなった肛門の前、または後ろの側を少し取り除いてやることで新しい柔らかい肛門を再生させることができます。
 手術は痛みを取るための腰椎麻酔によって安全に行います。腰椎麻酔の後、(若い人に特有ですが)急に動くと頭痛、吐き気、めまいを起こす人がいますので、2日間の安静が望ましいと思います。
 2日入院し2日安静にすれば、4〜5日後からは仕事に戻ることができます。


お産で激しい痛みが起きたとき

 お産の時、肛門が大きく腫れてひどく痛み、出産どころではないという方が時にみられます。
 これは普通の痔とは異なります。お産で息むため、静脈弁がない肛門に血液が行ったまま戻らなくなり、痛みが痛みを呼び、筋肉がけいれんで固まるため、極度の血液のかたまりが発生したもので、「かんとん痔核」といいます。この痛みはとんでもなくひどく、赤ちゃんどころでないというほどです。
 そこで、腫れている部分に麻酔剤の注射をすると、一時的に痛みが消失します。すると筋肉はけいれんの必要がなくなり、けいれんを中止します。この間に、腫れてうっ血したお尻は少しずつ元に戻ります。麻酔の後、お湯で暖かくしたタオルでお尻を温めるとさらに早く痛みが引きます。
 約8時間すると麻酔が切れて、また痛みが始まることがありますが、このときは同じことを繰り返します。これを数回行えば、痛みは引き、かわいい赤ちゃんを抱っこする余裕がでてきます。しかしこれを行わないと、5〜7日間くらいはひどい痛みが続きます。
 この処置は、痛んだとき産科の先生にお願いすればすぐにやってもらえます。

※ここで紹介した皮膚のケアは、全身の皮膚にも当てはまるものです。


藤好クリニック
藤好建史院長

昭和47年、熊本大学第二外科入局。
昭和56年、三井大牟田病院にて大腸肛門科。
その後、高野病院に副院長として勤務。平成6年、藤好クリニック開院