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「あれんじ」 2013年10月5日号

【熊遊学(ゆうゆうがく)ツーリズム】
ダイエット? 糖尿病予防? 「骨格筋」の底力!

 先端の研究者をナビゲーターに、熊本の知の世界を観光してみませんか!
熊本大学を中心に地元大学の教授や准教授が、専門の学問分野の内容を分かりやすく紹介する紙上の「科学館」「文学館」。それが「熊遊学ツーリズム」です。第22回のテーマは「骨格筋の発生と再生」。さあ「なるほど!」の旅をご一緒に…。    

取材・文/宮ア真由美

はじめの一歩

 「骨格筋」と聞くと、わが身の運動不足ぐらいしか頭に浮かびません。でも、骨格筋について知ることは、鍛えることへの第一歩⁉ だと思って、ラジオ体操をした後で研究室を訪ねました。 


【Point 1】「骨格筋」とは? 

 私たちヒトの筋肉には、平滑筋(へいかつきん)と横紋筋(おうもんきん)の2種類があります。平滑筋は内臓をつくっている筋肉で内臓筋とも呼ばれます。横紋筋には心筋と骨格筋があり、今回ご紹介するのは「骨格筋」です。
 「骨格筋は体重の40〜50%を占めています。全身には約400種の骨格筋があります」と語るのは、熊本大学大学院自然科学研究科の中山由紀准教授。
 骨格筋の特徴として挙げられるのは、細胞の一つひとつがとても大きいこと。この筋肉は細長い筋線維(きんせんい)が束になってできていますが、それぞれの筋線維が一つの細胞なのです。直径は60〜80μm(マイクロメートル、1μmは0・001mm)程度ですが、長さは長いものだと30センチを超えるものもあります。もともとは普通の細胞と同じように20μmくらいの大きさですが、それらの細胞が多数合体(融合)して、一つの細長い筒状の細胞になるのです。多くの細胞が融合しているため、もともとの細胞に一つずつあった核がバラバラになってそのまま細胞内に残ります。それらの核は、やがて筋線維の表面近くに押しやられます。その核の数を数えれば、いくつの細胞が融合したものかが分かります。一つの細胞内に核がたくさんあるので骨格筋は「多核細胞」ということになります。


【メモ1】「骨格筋」の重要な働き

 骨格筋には、大きく分けて3つの働きがあります。
1.エネルギー代謝
 私たちの体内では、常にエネルギー代謝が行われて熱を発生しています。最大の熱発生源は骨格筋であり、体内の発熱量の3分の2が作られています。エネルギー源はブドウ糖と脂肪酸。両方ある時はブドウ糖が優先されます。骨格筋のエネルギー消費量は体内の全エネルギー消費量の3分の1以上を占めています。運動をして筋肉量を増やせば、その分エネルギー消費量も増えるのです。
2.運動
 姿勢を保ち、筋肉を収縮・弛緩(しかん)することで身体運動を行う働きをします。
3.ブドウ糖の取り込みとグリコーゲンの合成・貯蔵
 体内の糖のバランスを保つのに、骨格筋は重要な働きをしています。運動は筋細胞へのブドウ糖の取り込みを促進させ、血糖値を下げる効果があります。


【Point 2】「サテライト細胞」の働き

 骨格筋のもう一つの特徴は、再生能力に優れている点です。体内の細胞は一定の周期で入れ替わっていますが、その周期とは別に、激しい運動などで筋肉の一部が傷ついたりして組織がこわれると、それまで眠っていた「サテライト細胞」という幹細胞が目覚めて(活性化)、壊れた部分を再生します(図1)。
 幹細胞とは、細胞分裂をして要所要所で必要な体細胞を作り出す増殖と分化の両方の能力を持つ細胞のことで、体内のさまざまな場所で細胞の再生・更新のために働いています。
 ところがサテライト細胞は、普段は筋線維の表面にへばりついているだけで休眠状態にあります。しかし、筋肉のどこかが損傷を受けて緊急事態を知らせる指令が届くと、活性化して患部に移動し細胞分裂を行います。やがて筋線維を作るための分化が始まり、分化した細胞と筋線維との融合が起こり、損傷部分の修復が完了します。また、一部の細胞は途中でサテライト細胞に戻り、次の事態に備えます。


【Point 3】「筋ジストロフィー」の治療法に向けての研究

 全身の筋肉が侵されて筋力がなくなり、萎縮していく「筋ジストロフィー」という遺伝性の疾患があります。この病気には多くのタイプがありますが、最も罹患率が高くて重篤なタイプはデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)と呼ばれるもので、男児の3500人に1人がかかると言われています。
 最近は血液検査でも分かりますが、3〜5歳に成長したころ歩行困難であることに周りが気づき、疾患が発見されることも多いようです。病が進行して横隔膜が侵されると、呼吸ができなくなり人工呼吸器に頼ることになります。これまでにさまざまな治療法が研究・開発されていますが、残念ながらまだ患者さんの多くは若年で亡くなるケースが多いようです。
 現在、研究されている主な治療法は、遺伝子治療、薬物治療、幹細胞移植、再生因子治療の4つです。DMDは「ジストロフィン」という骨格筋特有のタンパク質を作る遺伝子が変異して、ジストロフィンが作られなくなるために起こります。ジストロフィンは「裏打ちタンパク質」とも呼ばれ、細胞膜が壊れないように内側から支えている縁の下の力持ち。その大事な支えがなくなったら、細胞膜は破れて骨格筋が壊れてしまうのです。そこで、何らかの方法でジストロフィンが作られるようにすればいいわけです。
 今注目されているのは「エクソンスキッピング法」と呼ばれる治療法です。多くの遺伝子はいくつもの部分に分かれており、それらの部分がエクソンと呼ばれるものです。ジストロフィンが欠損するのは、遺伝子変異があるためですが、変異があるエクソンをとばしてメッセンジャーRNAを作らせることができる場合があります。これが「エクソンスキッピング」です。この場合、最終的にできてくるジストロフィンタンパク質は正常のものより短いことになるのですが、ないよりはずっと役に立つことが多いのです。実際の治療では「エクソンスキッピング」を起こさせる物質を投与するわけです。すでに治療薬は開発されていますが、すべての患者さんに適用できるわけではなく、高額な上にずっと投与し続けなければならないことなどが課題となっています。


【メモ2】筋骨隆々のマッチョなマウス出現!

 骨格筋の細胞内にある「ミオスタチン」というタンパク質は、筋肉量を調節する働きをしています。このミオスタチンが欠損すると、筋肉が異常に発達することが知られています。
 1997年には、ミオスタチン遺伝子を変異させたマウスが筋骨隆々になったと報告されました。牛でもミオスタチン遺伝子の自然変異によるマッチョ牛が発見されました。
 2005年にはドイツの医師が、手足が非常に太く発達した男の新生児を発見。超音波検査で、通常の2倍の筋肉量があることが分かりました。その子は5歳で3キロのダンベルを軽々と持ち上げたのだとか!?
 現在、筋ジストロフィーの治療薬として、ミオスタチンを使った新薬が開発中だそうです。


【メモ3】ヒョウタンから駒!筋ジス治療法研究から育毛剤開発の可能性

 降圧剤の研究途上に毛髪が生えてきたことから、育毛剤が作られたというエピソードは有名です。同じように、筋ジストロフィー治療法開発のための研究の一環として、骨格筋を再生させる関連因子として注目されている分子の一つ、チモシンβ4から育毛剤が開発されるかもしれません。
 というのは、この分子を体毛が欠落したマウスに投与したところ、発毛が促進されたと報告されているからです。これは、チモシンβ4が毛根幹細胞を毛母に運んで活性化させたことで発毛が進んだと考えられています。


【Point 4】筋肉再生因子の研究

 中山准教授は、東京都臨床医学統合研究所にいたころ、DMDの治療法の中で未開拓の分野である再生因子治療に着目しました。
 ジストロフィン変異マウスは、DMD患者さんと一部では同様の症状が見られるものの、筋力の低下がほとんど見られないことが知られています。そこで、中山准教授は「マウスでは、筋肉を再生させる何らかの促進因子がたくさん分泌されるために、再生機能が高まり症状が抑えられたのではないか」という仮説のもとに、培養したマウスの骨格筋細胞株で多く作られている分子をいくつか選んで、その機能を調べる研究を始めました。培養細胞とマウス自体の両方で研究を進め、現在は4つの分子に絞って筋再生への関与を検討しています。
 「筋再生の新たな分子メカニズムを解明し、DMDの治療法につながるような因子を早く見つけたい」。中山准教授の研究は大きな可能性を秘めています。


【なるほど!】

 中山先生の研究は、筋ジストロフィーの患者さんを救う治療法につながる実用的な研究です。先生の研究が、有効な治療法への突破口になればいいですね。


熊本大学大学院
自然科学研究科(理学専攻)
生命科学コース
中山由紀准教授

筋肉がどのように発生し、どのように再生するかを研究しています。