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「あれんじ」 2013年9月7日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
いつまでも若々しく健康に! 中高年のための食事のヒント

 食事は毎日の楽しみの一つではないでしょうか。しかし中高年になると、好きなものを好きなだけ食べられた若いころのようにはいきません。そこで、今回はいつまでも若々しく健康でいられるような食事のヒントをご紹介します。

バランスのとれた食事にするには

 健康的に暮らすにはバランスの良い食事を取ると良いと言われますが、日々の食事をすべて栄養計算して管理するなどは難しく、とてもできるものではありません。
 今は食事バランスガイドといって、毎日の栄養バランスを料理のお皿で数えることによって、簡単にチェックできる方法もあります。
 それもなんだか面倒だな、と思われる方へおすすめの方法があります。それは、日本の伝統的な食事スタイルである一汁三菜の考え方で食事をすることです。


<一汁三菜とは>

 一汁三菜とは、ご飯(主食)に汁もの、おかず3種(主菜1品、副菜2品)で構成された献立です。ご飯でエネルギー源となる炭水化物を、汁もので水分や野菜を、主菜でたんぱく質を取ることで、栄養をバランスよく取ることができます。
 加えて、副菜に野菜をたっぷり使えば、不足しがちなビタミンや食物繊維、抗酸化作用を示す成分などを摂取することができます。
 農林水産省は1日に野菜350g以上摂取することを推奨していますが、実際の成人の平均摂取量は277・4g(平成23年国民健康・栄養調査)しかなく、慢性的に不足している状態が続いています。
 ご飯や麺の主食や肉や魚を使った主菜を多く取り過ぎると生活習慣病になる危険性があります。同じ量のエネルギーを摂取していても、野菜を中心とした副菜を積極的に取り入れることで、糖質や脂質の吸収を穏やかにして、血糖値や血中の脂質濃度が上がりにくくなるという効果も期待できるのです。高価なサプリメントや健康食品などを使わなくてもおいしく健康になれるというわけです。


<野菜から先に食べると>
【図1】 食後血糖値の推移(A)、食後インスリン値の推移(B)

 食べる順番によって、食後の血糖値に影響を与えることが報告されています。
 健康な成人を対象に、野菜サラダを米飯の前に摂取した場合と後に摂取した場合とで、食後血糖値およびインスリン値の変動を観察した結果、図1に示すように、サラダを先に食べた群で、血糖値上昇とインスリン値上昇の両方が抑制されました。
 このことから、野菜を使った副菜を先に食べて、その後に主食や主菜を食べることで、同じエネルギー量でも、より健康的な食事の取り方ができるかもしれません。2型糖尿病患者でも同様の結果が得られたことが報告されています。ここではサラダを使った研究をご紹介しましたが、生野菜よりは加熱した野菜の方が食べやすく、たくさん食べられる上、調理方法の種類も多いので、旬の野菜をお好みの調理方法で召し上がっていただければと思います。


積極的に取りたいあぶらとは

 食べる順番も大事ですが、食事の質にもこだわると良いことがあります。脂肪というと肥満の原因としてできるだけ取らない方が良いと思われる方が多いと思います。しかし、あぶらの中にもできるだけ取りたくないあぶらと積極的に摂取することで健康になるあぶらがあります。そこで、特に積極的に取りたいあぶらについてお伝えします。
 必須脂肪酸という言葉をご存じでしょうか? ビタミンやミネラルのように不足すると何らかの症状が出てしまうあぶらや、ヒトの体では作ることができないあぶらのことを指します。
 そのあぶらは主に、陸上植物に多く含まれるオメガ6系と魚介類に多く含まれるオメガ3系に分けられます。オメガ6系のあぶらは、てんぷらや炒め物にサラダ油を使うことで、容易に摂取することができます。
 しかし、オメガ3系の脂肪酸は陸上生物からはあまり摂取することができません。そういったことから、魚をあまり摂取されない方には不足しがちなあぶらといえます。


<健康になる魚のあぶら>

 日本人がどういった栄養素をどのくらい取れば良いかを厚生労働省が示した「日本人の食事摂取基準2010年版」には、オメガ3系脂肪酸として、男性では2・4g/日以上、女性は2・1g/日以上(50〜69歳)取ることを勧めています。代表的なオメガ3系のエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)の魚油からの摂取も併せて推奨しています。
 これに関しては、一日にどのくらいエネルギーを摂取したかは問いませんので、あぶらを避けてきた方にも少し興味を持っていただきたいと思います。
 魚油の良い点としては、統計学的に、総死亡、虚血性心疾患、心不全、脳卒中、がん、加齢性黄斑変性について予防効果があるといわれています。これはいずれもヒトにおける研究結果ですから、信頼のある科学的根拠といえます。
 しかしこの魚油、その機能性が高く評価される反面、非常に酸化されやすい性質を持っています。酸化された油は体に悪影響を与えます。したがって、古くなった魚はお勧めしません。また、精製魚油を食生活に活用する際には、加熱せずに食べることを心がけるとともに、できるだけ光を避ける方法で保存していただきたいと思います。


<魚を食べましょう>
【図2】 魚油の1日の必要量

 実際に取るべき量の魚油を食品に置き換えてみると図2の通りになります。サンマだと中型1尾、マイワシだと2尾弱になります。これらはいずれも1日の量で示していますので、昼や夜に分けて食べていただいても構いません。
また、魚油は魚の身だけでなく、皮や血合い肉にも含まれますので切り身ではなく丸ごと調理していただくと無駄なく取ることができます(図3)。


【図3】 魚油(EPAとDHA)の魚体内分布


<エゴマ油を知っていますか>

 オメガ3系のあぶらは、主に魚介類から摂取できることをご説明しましたが、陸上の生物の中でもまれにこのあぶらを多く産生する植物があります。摂取すると冠動脈疾患のリスクが軽減されるとの報告もあるα–リノレン酸を多く含む油として亜麻仁油とエゴマ油が知られています。
 これらのあぶらは古くから日本で生産されてきましたが、外国産の安価なあぶらに押されて今ではあまり見られなくなりました。
 しかし熊本では、エゴマを中山間地の有効利用として無農薬で栽培し、そのあぶらを食用として活用しているようです。遠出の際に地元の物産館などでお尋ねになったらいかがでしょう。


おわりに

 中高年は働き盛りで、ついつい自分の身体のことは後回しにしがちです。仕事や家庭のことなどが次から次に押し寄せ、めまぐるしく毎日が過ぎていきます。しかし、その中でも自分の身体のことをしっかりと見つめる時間を持つことがとても大切です。定期的に体重を測定したり、健康診断を受けたりして、自分の健康状態を確認する機会を設けてください。
 そして、健康診断の結果が良ければ現状維持を、改善しなければならない結果が出た場合には、早めに、食事とともに運動や休養も含めた生活全般を見直すことをお勧めいたします。そういったことを定期的に見直すことを心掛けていくことが元気で長生きの秘訣だと思います。


今回執筆いただいたのは
熊本県立大学
環境共生学部 食健康科学科
友寄(ともより) 博子講師
博士(農学)、管理栄養士