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「あれんじ」 2013年8月3日号

【慈愛の心 医心伝心】
【第三十一回】「家族」のスタートライン

女性医療従事者によるリレーエッセー【第三十一回】

【第三十一回】「家族」のスタートライン
熊本大学医学部附属病院
小児科 診療助手
森 博子

 私の勤める新生児センターでは、日々小さな患者さんたちが頑張っている。生まれてすぐの赤ちゃんが入院するこの場所は、「家族」の始まりの場所でもある。
 保育器におさまるわが子の手を恐る恐る、でもしっかりと握るお母さんと、それを支え優しい目で見つめるお父さん。そんな、「家族」のスタートラインは、どんな世界遺産もかなわないくらい感動的な光景だ。
 「家族」の始まりは時に突然で、時に残酷だ。生まれてすぐ重い病気が見つかる赤ちゃん。切ないくらい短い一生を終える赤ちゃん。そんなわが子と向き合うご両親。
 一緒にいられる時間が短くても、お父さんとお母さんと、二人に抱かれる赤ちゃんは、それでもしっかり「家族」になっている。退院後の容体が不安でも、「家族」で一緒に過ごせる幸せを感じて前を向いて退院されていく。
 私も今年、母になった。初めての妊娠、出産、育児。無事に生まれ、育ってくれていることへの幸せと感謝。「子どもに何かあったら…」という押しつぶされそうな不安と責任。いろんな感情が目まぐるしく押し寄せる毎日を過ごす中で、自分の仕事に対する気持ちも変わってきた。
 新生児センターは、いのちが目覚めると同時に、「家族」が生まれ育つ場所。いつまでも、いつまでも、新しく生まれた「家族」を見つめ、どんどん育つ「家族」に寄り添っていきたい。
 ここは「家族」のスタートライン。その第一歩をしっかり踏み出してもらえるように、私も努力していきたい。