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「あれんじ」 2013年6月1日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
矯正歯科治療 お母さん方が知りたい“5つ”のヒントQ&A

 6月4日から10日まで「歯と口の健康週間」です。啓発活動によって子どもの虫歯は随分減っていますが、歯並びが気になる子どもが増えていると聞きます。
 そこで今回は、矯正歯科治療についてお伝えします。

はじめに 矯正歯科治療はなぜ必要?

 矯正歯科専門医として、矯正歯科治療が必要な子どもたちを多く見受けます。その子どもたちや母親たちには、早い時期から必要な不正咬合の予防や矯正歯科治療の必要性に対する正しい知識や情報が伝わっていないように思われます。
 正常咬合とは何でしょう。簡単に言うと「きれいでよくかめる歯並び」で、不正咬合とは「上下の歯が適切にかみ合っていない」状態のことです。歯に原因があるものと骨格的な問題があるものとがあります。
 不正咬合によって正しく歯磨きができないとむし歯や歯周病になりやすく、また食べ物をよくかめなかったり、外見上の問題から心の問題を引き起こすことも考えられます。
 矯正歯科治療でかみ合わせや審美的な改善が得られるのは当然ですが、正常なあごの成長を促し、むし歯や歯周病の予防、咀嚼(そしゃく)機能の向上、発音機能の改善などが得られます。また、よくかむことで満腹感が得られるというダイエット効果や、口元の小じわやホウレイ線が薄くなるなどアンチエイジングの効果も考えられます。


考えたい子どものあごの発達

 最近の子どもたちはあごの発達が悪く、「永久歯がきれいに並ばないのでは」とお母さん方からよく尋ねられます。
 これは、幼児期からの軟らかいものの摂取など食習慣が大きく影響しています。よくかまない、お茶などで食べ物を流し込むことによってあごが十分発育していないのです。著しい場合は乳歯列ですでにガタガタになっている子もいます。
 現代病の一つといえますが、お母さん方には、むし歯撲滅に情熱を注ぐのと同じように、“あごを大きくするためどうしたらいいか”をわれわれと共に考え、行動してほしいと思います。

 そこで、不正咬合や矯正歯科治療に対してよく聞く疑問を”5つ“のヒントQ&Aとしてまとめました。


<ヒント1>Q.矯正治療は”いつから?“
写真1 ムーシールド症例

A. お母さん方からよく聞かれる質問です。健診などで尋ねた際「しばらく観察しましょう」「永久歯になってから治療を始めましょう」といった返事が返ってくると聞きます。矯正の専門家からしますと「何を観察するんだろう」、「永久歯になるまで何を待つのだろう」と考えてしまいます。心配なときは矯正に詳しい先生や専門家に相談してください。検査・診断を行い、本当に治療が必要で有効な治療法があるのであれば、何歳からでも始めるべきです。
 写真1は4歳の男の子で反対咬合(上の歯よりも下の歯が外に出ているかみ合わせ。受け口とも言う)を訴え、来院。乳歯反対咬合で、横顔から鼻の下がやや陥没していることが分かります。そこで筋機能のアンバランスを正しくするための機能的矯正装置の一つであるムーシールドを装着しました。約6カ月後、反対咬合は改善されました。横顔を見ますと陥没感は改善されています。このように早期治療を行うことにより反対咬合という成長を阻害する因子を除去し、正しい成長発育のラインに乗せることができます。


<ヒント2>Q. ガタガタな子どもの前歯 ”どうしよう?“
写真2

A. 文明とともに食べ物は軟らかくなると聞きます。特に最近の子どもは軟らかいものを好んで食べる傾向が強く感じられます。軟らかいものを食べ続けるとあご自体が小さくなります。歯も一緒に小さくなれば問題はないのですが、歯は縄文時代の大きさと変わりません。
 すると、どういったことが起きるでしょうか。3〜4歳ころ、乳歯の前歯部にたくさん隙間があれば永久歯が正常に生え変わりますが、隙間がない、あるいは乳歯列ですでにガタガタになっていれば永久歯列では必ず乱ぐい歯になります(写真2)。これを防止するために、歯科医師会では「よくかんで食べましょう」「一口30回はかみましょう」「かむことの効用」などの啓発運動を行っています。よくかみ、正しい食習慣を身につけることで不正咬合を予防できないものかと、熊本矯正歯科研究会でもフィールドワークを始めたところです。


<ヒント3>Q. 歯が生えてこない”なぜ?“

A.  歯があごの骨の中に埋まっていることが考えられます。かかりつけ医にレントゲンを撮ってもらい、歯が埋まっていることが分かったら、矯正の専門医を紹介してもらいましょう。
 埋まっている歯の位置や歯根の形態によってやむを得ず抜歯することもありますが、埋まっている歯は可能な限り矯正的に所定の位置に引っ張り出し、かみ合わせを正しくします。
 誤って抜いてしまいますとインプラントやブリッジが必要となり、またかみ合わせも正しくすることが難しくなります。


<ヒント4>Q. 歯を抜く? 抜かない? ”矯正治療での選択は?“
写真3 抜歯症例

A.  最近、歯を抜かない治療が推奨されている風潮がありますが、症例によって異なります。あごや歯並びの幅を広げることで歯を抜かない治療ができる症例もありますが、歯が生えるスペースが著しくし不足している場合や上下の前歯の前後的なずれが大きい場合は歯を抜く治療を選択します。歯を抜かないと調和の取れた顔つきとかみ合わせを得ることができないからです。
 下の症例を歯を抜かずに治療すると、上下の前歯は前方に出て口元が突出し審美的にも悪くなります。歯を抜いて治療することで、調和の取れた顔つきとかみ合わせが得られました(写真3)。


<ヒント5>Q. 顔がゆがんでいる ”どういう治療があるの“
写真4

A.  矯正歯科治療とあごの手術が必要です。厚生労働省から指定された矯正専門医のいる施設や口腔外科専門医のいる施設では健康保険が適用されます。
 上あごと下あごのずれが著しい場合、顔つきに対しコンプレックスを持っていることが多く、特に下あごが過度に前に出ている場合顔全体の印象に大きな影響を与えるため、心理面に悪影響を及ぼすことがあります。
 「下あごが出ている、特に思春期になって前突感が強くなってきた」という患者さんの口の中を診ますと、下あごが上あごより前に出て、さらに上下の前歯は開いた状態でした。咬み合わせの面が一直線になっていません。矯正用のインプラントを用いて咬み合わせの面を一直線にした後に手術で上あごを前に、下あごを後方に同時に移動し骨格的なずれを改善すると、劇的にかみ合わせと顔のバランスが良くなりました。(写真4 写真5)。


写真5


おわりに

 なぜ矯正歯科治療が必要なのか、もう一度考えてみましょう。
 歯並びを治し、口腔環境を整えることにより
1.咀嚼能率の向上
2.あごの正常な成長・発育
3.下あごの良好な運動
4.良好なプラークコントロール
5.審美的コンプレックスの解消
が行われることから、よく食べ・よくかみ・よく話し・よく笑うことができるようになり、楽しい生活を送ることができます。
 日本では、矯正歯科治療が必要な患者の10%しか治療を受けていません。欧米では、矯正治療が必要な子どもたちの80%が治療をしています。これは、きれいな歯並びが社会で成功するためのパスポートであるとみんなが認識しているためでしょう。早く欧米並みになってほしいと私は願っています。


今回執筆いただいたのは
医療法人伊東会 伊東歯科口腔病院

伊東 隆三 副院長

・元福岡歯科大学大学院
歯科矯正学講座 助教授
・熊本矯正歯科研究会会長