すぱいすのページ

トップページすぱいすのページ「あれんじ」 2013年5月4日号 > 【第二十九回】地域医療と私

「あれんじ」 2013年5月4日号

【慈愛の心 医心伝心】
【第二十九回】地域医療と私

女性医療従事者によるリレーエッセー【第二十九回】

【第二十九回】地域医療と私
阿蘇中央病院
内科医師
首藤 千春

 大好きな阿蘇に来て2年目を迎えました。初めは「地域医療に貢献する」と気負っていたくせに、慣れない言葉や大学病院で経験したことのない疾患に、とても戸惑ったのを覚えています。
 「やっぱり田舎には馴染めない」と、何度思ったか分かりません。しかしこの土地で生活していくうちに、私の中で何かが変わっていくのを感じました。
 採れたての野菜や自家製の漬物を外来へどっさり持ってきてくれる患者さんや、「今日は先生の方が病人みたいな顔してるけど、大丈夫?」と心配してくれる患者さんたちの温かさに触れ、今までは患者さんの家族関係や退院後の生活など考えることもなく、病気を治すことだけが自分の仕事だと考えていたことに気付かされました。
 馴染めないと悩んでいたのは、どこかで患者さんとの間に境界線を引き、自分から拒んでいたのではないかと思うようになり、患者さんを取り巻く全てのことを考えた医療をしたいと考えるようになりました。
 阿蘇に来て、この土地の患者さんと接することで、私はいろんなことを感じることのできる柔らかで幅のある感性を得ることができたと思っています。そのおかげで、医師としても人間としても一歩成長させていただけたと感謝しています。
 私にとっての地域医療は、気負って行うようなものではなく、患者さんとの距離がとても近い医療のことです。私は、病院の勤務医ではあるけれど、患者さんにとっていつでも相談ができるホームドクターでありたいと心から願っています。