というわかりやすい句は、私が一番に覚えた句のひとつである。
整ふる倉子(くらこ)の朝餉(あさげ)寒卵 山村ふみ子
新婚の倉子も居りぬ寒造(かんづくり) 〃
一句目の季題は「寒卵」で、寒中に産んだ鶏の卵。いかにも滋養がありそう。二句目の「寒造」は寒中の酒造で、これは一番美味。
どちらも、寒さきびしい阿蘇の高森町の酒蔵の俳句。倉子とは、杜氏(とうじ)とも言って、寒のころ働きにくる酒づくりの職人さんたちのこと。若い新婚の倉子も単身で来たりするが、作者は母親のように何かと気を配って朝食を用意する。みんな家族同様で、どこかなつかしく、生活感あふれる句だ。
それに「寒稽古(かんげいこ)」も、いい季題だ。これは、一年で一番寒いこの時期に武道や芸ごとの稽古に励むことで、私はこのいかにも厳しく凜(りん)とした雰囲気が好きだ。次の句など、舞の名手ならではの一句。
小つづみの血に染まりゆく寒稽古 武原はん
最後に、がらっと変わって、一番寒いころの「大寒」の一句。小さな人間の生死などを超えたこの虚子の眼差(まなざし)には、凄味(すごみ)がある。
大寒の埃(ほこり)のごとく人死ぬる 高浜虚子 |