【熊遊学(ゆうゆうがく)ツーリズム】
花と昆虫の知恵比べ「受粉の生物学」
先端の研究者をナビゲーターに、熊本の知の世界を観光してみませんか! 熊本大学を中心に地元大学の教授や准教授が、専門の学問分野の内容を分かりやすく紹介する紙上の「科学館」「文学館」。それが「熊遊学ツーリズム」です。第19回のテーマは「受粉の生物学」。さあ「なるほど!」の旅をご一緒に…。 |
【はじめの1歩】 |
「昆虫が花を見る時、われわれ人間が見るのとは違って見えている」と、以前聞いたことがあります。虫たちは、目の前に広がるお花畑をどう見ているのでしょうか? 花々は、どのようにして虫たちを誘っているのでしょうか? しばし、花や虫の気持ちになって世界を見ることができたら、そこにはどんな風景が広がるのでしょうか? |
Point1 「受粉の生物学」の楽しさ |
研究室に入ってまず目に入ったのは、パソコンの中にあふれる多数の花の写真でした。「私の研究分野は『受粉の生物学』と言います。花というのは本来、生殖器官ですよね。キクもユリもランも、昆虫に花粉を運んでもらうという同じ目的を達成するために、さまざまな工夫を凝らして進化してきました。中には、花の概念からはみ出してしまうような変わった形の花もたくさんあります。それは、花粉を託す昆虫との相互関係から生み出されてきたものです。そういった昆虫媒花の受粉の仕組みやその多様性について研究しています」と、熊本大学大学院自然科学研究科の杉浦直人准教授は語ります。 |
Point2 虫をだますために変形した花々 |
杉浦准教授が、植物の中で一番興味を持っているのはランの仲間です。花をつける植物の中で、種類の多さではキクとランが双璧ですが、ランは花の形がバラエティーに富んでいて、非常に研究意欲をかき立てられるそうです。面白いのは受粉の仕組みで、ハチやチョウ、カナブン(甲虫)、熱帯では鳥なども受粉に関わっています。彼らは蜜を求めてやってきますが、ランの中には蜜を出さずに、昆虫をだまして花粉を運ばせる種類がたくさんあります。そのようなランの受粉戦略を中心とした研究が、杉浦准教授の専門領域です。 |
Point3 レブンアツモリソウのだましの手口 |
ネムロシオガマ(右)と混生するレブンアツモリソウ
杉浦准教授は環境省などと協同し、北海道・礼文島だけに自生する固有の野生ランで、特定国内希少野生動植物種に指定されているレブンアツモリソウの保全のために、2000年から研究を続けています。 |
花から脱出中のニセハイイロマルハナバチ
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Point4 花の美しさは“機能性”の美しさ!? |
虫をだます花を観察していると、次第に昆虫は学習し訪れる頻度が下がるので、何日間にもわたって忍耐強く待つ覚悟が必要です。杉浦准教授は毎年数回、初夏から秋にかけて礼文島を訪ねていますが、北海道最北端の稚内の沖合にあるため、野外観察は寒空の下でハチを待つ毎日。研究者も数少ないといいます。 |
【阿蘇の珍しい花1】大発見! ヒゴタイの自家受粉防止策 |
杉浦准教授は、学生たちの卒業論文や修士論文のために、阿蘇の珍しい植物の観察指導も行っています。 |
【阿蘇の珍しい花2】カキランのアリ受粉 |
花粉の塊を頭に付けたクロオオアリ
柿色の花弁をもつことから、「カキラン」と名付けられたランの一種も阿蘇には自生しています。普通は湿地に咲き、足場の唇弁にハナアブが乗ると、唇弁がシーソーのように上がって背中に花粉を背負わせるように進化しています。 |
【メモ1】レブンアツモリソウの受粉を邪魔する迷惑な生き物たち |
●コマチグモの仲間 |
ナビゲーターは |
熊本大学大学院自然科学研究科(理学専攻)
生命科学講座 杉浦直人准教授 花との出合いは一期一会、二度と同じ花には会えない覚悟で観察します。 |