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「あれんじ」 2013年3月2日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
組織型で治療法異なる「肺がん」

 年々増加し、がんの部位別死亡率で、男性は90年代から1位(女性は2位)という肺がん。
 そこで今回は、肺がんの診断や治療についてお伝えします。

はじめに〜肺の役割と肺がんについて〜

 肺は、胸郭(肋骨(ろっこつ)や筋肉、おなかとの間を隔てる横隔膜で作られた鳥かごのような空間)に左右1つずつ存在します。肺は、空気中の酸素を血液中に効率よく取り込み心臓を介して全身に酸素を供給し、そこで産生された二酸化炭素を排出するという、生命維持に必須な「呼吸」を担っています。従って肺は、内臓でありながら環境にさらされており、タバコや大気汚染の影響を直接受けているためにがんが起こりやすい臓器です。


肺がんの症状

 せきや血痰(けったん)、息切れ、胸痛は、肺がんに多い症状といわれていますが、肺がんだけに特有の症状ではありません。肺炎や肺結核などの他の疾患との区別が必要です。
 肺以外の場所に転移や浸潤した場合には、その部位によって、頭痛や声のかすれ、腰痛、手足のまひなどの症状が出ますので、およそ肺とは関係ないと考えてしまうような症状で肺がんが見つかることもあります。
 また最近では、無症状のうちに検診などで見つかって来院される方も多くなりました。


肺がんの診断

 胸部X線写真、胸部CT検査において肺がんを疑う陰影があった場合には、本当に肺がんであるか、また肺がんの中でどういった種類(組織型)に当たるかを診断するために、その病変部位から細胞や組織を採取します。
 具体的には、気管支内に内視鏡を挿入し組織を採取する検査(気管支鏡検査)や、CTで確認しながら病変部に針を差し組織を採取する検査(CTガイド下針生検)、喀痰(かくたん)からがん細胞を検出する検査、がんにより胸腔に水がたまっていれば、その胸水を注射器で採取する検査などが行われます。
 これらの検査により肺がんであることが確定すれば、その後に病変の広がり(進行度、病期)を判定するために、PET検査や頭部CT、MRI検査、骨シンチグラフィーなどの全身検査を追加します。
 以上の検査で、肺がんの診断、組織型、進行度が決定され治療方針に必要な情報が得られます。


肺がんの組織型(種類)
【図1】
肺がんの種類と部位

 肺がんは、顕微鏡で観察されるがん細胞の特徴をもとに分類されています。その大部分を占めるのが腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん、小細胞がんの4つの組織型です。
 腺がんは全体の約半数、扁平上皮がんが約3割、小細胞がんは1〜2割程度を占めます。小細胞がんとその他のがん(腺がん、扁平上皮がん、大細胞がん)の間には、特性や治療効果に違いがあることから、小細胞肺がんと非小細胞肺がんとに区別して治療方針を決定します(図1 図2)。
 最近では、抗がん剤の有効性の違いから非小細胞肺がんをさらに扁平上皮がんとそれ以外のがん(非扁平上皮がん)に分けて治療するようになってきています。


【図2】
肺がんの組織型


肺がん細胞の遺伝子検査と新しい治療薬
 がん発症の原因に遺伝子の異常があることは広く知られています。肺がんの一部では、ある特定の遺伝子の異常によりがんが発症することが明らかになり、これに基づいて、その遺伝子異常で産生される分子(たんぱく質)の機能を抑制するがん治療薬が開発されています。従って、肺がんの診断の際に、がん細胞の遺伝子検査を同時に行うことが増えてきました。
 現在は上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異、ALK遺伝子転座という2つの遺伝子の異常を検査します。これらの遺伝子異常は腺がんに多く、EGFR遺伝子変異は腺がんの約半数、ALK遺伝子転座は腺がんの4〜5%に存在します(図3)。
 こういった治療に結びつく遺伝子の異常が毎年のように新しく発見されてきていますので、今後もがんの診断・治療のさらなる進歩が期待されます。

 がん発症の原因に遺伝子の異常があることは広く知られています。肺がんの一部では、ある特定の遺伝子の異常によりがんが発症することが明らかになり、これに基づいて、その遺伝子異常で産生される分子(たんぱく質)の機能を抑制するがん治療薬が開発されています。従って、肺がんの診断の際に、がん細胞の遺伝子検査を同時に行うことが増えてきました。
 現在は上皮成長因子受容体(EGFR)遺伝子変異、ALK遺伝子転座という2つの遺伝子の異常を検査します。これらの遺伝子異常は腺がんに多く、EGFR遺伝子変異は腺がんの約半数、ALK遺伝子転座は腺がんの4〜5%に存在します(図3)。
 こういった治療に結びつく遺伝子の異常が毎年のように新しく発見されてきていますので、今後もがんの診断・治療のさらなる進歩が期待されます。


肺がんの治療

 肺がん治療は、手術、放射線治療、薬物療法(抗がん剤、分子標的治療薬)の3つが柱となります。病気の進行度によってこれらを単独で用いたり、組み合わせて行ったりします。また最近では、進行がんに対し、緩和治療といって身体的、精神的なつらさに対処する治療を並行して行うことも重要視されてきています。

<手術>
 肺がんを根治できる可能性が最も高い治療法です。手術が可能かどうかは、肺がんの広がり具合、組織型、患者さんの状態(年齢、全身状態や他の疾患の有無など)によって異なり、専門的な判断が必要です。
 肺は、右肺が3つ(上葉、中葉、下葉)左肺が2つ(上葉、下葉)の計5つの肺葉に分かれています(図1)ので、一般的には病巣のある肺葉を切除します。病変や患者さんの状態によっては、より縮小した範囲(区域)の切除手術を行うことも増えてきています。
 また最近は、ビデオカメラ装置を備えた胸腔鏡で胸の中を観察しながら手術をすることで、従来より切開創を小さくし体の負担を少なくすることが可能になりました。なお、手術をする際には手術後の肺炎予防のために禁煙は必須となります。


<放射線治療>
 放射線には細胞を傷害する作用があり、がん病巣に当てることでがん細胞を死滅させようとするものです。正常な細胞もダメージを受けますが、最近は治療機器や治療設計法の進歩で、がん病巣だけに放射線を集中させることができるようになってきました。
 抗がん剤と併用してより強力にがんを抑えたり、高齢の方やもともと持っている他の病気で手術が難しい方にその代替として行ったり、病巣部位の痛みを和らげるために、症状改善目的で行ったりと、目的に応じて使い分けられるのも放射線療法の特徴です。


<薬物療法>
●抗がん剤(化学療法)
 抗がん剤は肺がん治療の大きな柱の一つです。がん細胞に強くダメージを与えますが、正常の細胞も少なからずダメージを受けるため、さまざまな副作用が起こります。最近は、副作用を抑制する薬剤の併用などの工夫が進みましたので、問題なく治療を継続することができるようになりました。
 抗がん剤は主に点滴で投与されるものが多く、2種類の抗がん剤を併用する方法が標準的ですが、高齢の方や、患者さんの状態によっては1剤で行うこともあります。
 がん組織へ供給される血液量を減らすための血管新生抑制薬という新しいタイプの薬剤を組み合わせることもあります。

●分子標的治療
 がん細胞の中にあって、止めどない細胞増殖などのがん細胞としての特徴を担っている分子を標的に、弓矢で的を射抜くようにピンポイントで作用する薬です。正常な細胞も少なからず叩いてしまう抗がん剤とは性質が異なります。
 特に肺がんでは上述したEGFR、ALKといった特定の遺伝子に異常があれば、それぞれEGFRチロシンキナーゼ阻害薬、ALK阻害薬という経口剤の分子標的治療薬が高い効果を示します。


肺がんと喫煙<禁煙外来のすすめ>

 タバコの煙は直接肺内に流入するため、肺内はタバコの煙の濃度が非常に高くなります。タバコの煙には多くの有害な物質が含まれており、それらは肺がんの原因もしくは誘因となっています。
 肺がん発生の危険性は、喫煙者が非喫煙者に比べて数倍高くなります。また、たばこを吸わない人が周囲のタバコの煙を吸ってしまう受動喫煙でも、肺がんの危険性が高くなります。従って、ご家族や友人、同僚のためにも、禁煙は肺がんの予防にとても重要です。喫煙していた人も禁煙によって肺がん発生の危険性は時間とともに低下するため、喫煙者でも早く禁煙することが重要です。
 最近では一定の条件を満たせば、禁煙治療を健康保険診療で行う事ができますので、希望される場合は是非、お近くの禁煙外来をしている病院や医院にご相談ください。


おわりに

おわりに
 肺がんと判明した場合、現在は病状によってさまざまな治療選択肢があります。また、患者さんをサポートする方法、手段も多様化しています。私たち医師は多面的にお手伝いできる準備ができていますので、ぜひご相談ください。


今回執筆いただいたのは
熊本大学医学部附属病院
呼吸器内科

佐伯 祥 助教

・日本内科学会認定医
・日本がん治療認定医機構がん治療認定医