【専門医が書く 元気!の処方箋】
きちんと知りたい「うつ」
最近では、「プチうつ」という言葉も聞かれ、良くも悪くも「うつ(鬱)」という言葉は、日常語として一般的に使われるようになってきています。なんとなく分かっているようで、実はきちんと知らない…。今回は、そんな「うつ」についてお伝えします。 |
はじめに |
つらいこと、嫌なこと、ショックなことがあると気分が落ち込むというのは自然なことです。中には誘因もなく、気分が落ち込むということもあるかも知れません。精神医学では、その状況、様子(程度)、期間に関して、通常の落ち込みよりも程度の強い気分の問題を「気分障害」と総称しています。その代表的なものが「うつ病」です。 |
<症状・病態>症状が一定期間続くかどうかがポイントに |
【表1】うつ病の診断基準
うつ状態を呈する病気は精神科の担当する病気に限らずたくさんあります。うつ病を合併しやすい身体疾患としては、甲状腺機能障害、パーキンソン病などが代表的で、脳卒中後のうつ状態もリハビリの面から大きな問題です。最近では、高血圧、U型糖尿病、メタボリックシンドロームなどいわゆる生活習慣病との合併も注目されています。 |
<統計学的情報>女性の方が男性より2倍もなりやすい傾向 |
【図1】うつ病の診断基準
日本における20歳以上の一般住民を対象にした調査では、6.5%の人が一生のうちに一度はうつ病になるとの結果が得られており、約15人に1人はうつ病を経験する計算になります。 |
<原因・メカニズム>まだよく分からない部分も |
残念ながら、うつ病の原因やメカニズムはまだよく分かっていません。治療のところでも述べますが、セロトニンやノルアドレナリンといった神経伝達物質を活性化させる薬剤が効果を発揮することから、脳内でのこれらの神経伝達物質の量や機能の調節異常が関連していることは確かなのですが、詳しいメカニズムは分かっていません。 |
<治 療>新しい薬も登場 |
基本的には、薬とカウンセリングに代表される精神療法が中心になります。近年、抗うつ剤は従来のものと比較して格段に副作用の少なくなったSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)が主流になっています。さらにNaSSA(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)と呼ばれる新しいタイプの薬も発売されています。かかりつけ医でも、これらの抗うつ剤を処方されるところが一般的になりつつあります。 |
おわりに |
「うつ病の体験を乗り越えれば、ひと回り大きくなれる」と言われています。当科では昨年から、高齢者の気分障害を対象とした専門外来「シルバーうつ外来」を始めています。周囲も含め、高齢者の心身の不調を年齢のせいと見過ごさずに一度医療機関に相談してみてください。 |
今回執筆いただいたのは |
熊本大学医学部附属病院
神経精神科 藤瀬 昇 講師 精神保健指定医 日本精神神経学会専門医 |