【専門医が書く 元気!の処方箋】
五十肩(肩関節周囲炎)と腱板(けんばん)断裂
ある朝、洗濯物を干そうとしたら腕が上がらない、痛みを感じる、などの経験をしたことがある人は多いのではないでしょうか。 今回は、一般的に「五十肩」と呼ばれる肩関節周囲炎について、症状が似ている腱板断裂と併せてお伝えします。 |
はじめに |
五十肩は、中高齢者の肩関節に痛みを生じる数多くの疾患の中で最も高頻度に認められますので、これを中心に説明します。病名としては肩関節周囲炎といいます。治療に当たってこの肩関節周囲炎と鑑別しておかなければならない病気の中で、特に重要なものが肩関節のまわりにある腱板の断裂ですので、それについても触れておきます。 |
肩関節周囲炎の概要 |
【図1】凍結肩
肩関節周囲炎は、外傷や前ぶれとなる病気がなく生じ、中高齢者に起こることが多いので、老化や運動不足が関係していると考えられています。また、糖尿病のある人は、ない人と比べて肩関節周囲炎になることが3倍多いことも分かっています。 |
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肩関節周囲炎の症状と診断 |
【写真1】肩関節周囲炎
上腕骨頭の上の黒いひも状の腱板が、骨頭の外側に付着している(骨の部位名は左の図3参照) 肩関節周囲炎は、前兆なく突然起こります。力仕事よりデスクワークが中心の仕事をされている人に多い傾向があります。 |
【写真2】肩腱板断裂
上腕骨頭の上の黒いひも状の腱板が、骨頭の外側から剥がれている(矢印の白い部分が断裂部) |
肩関節周囲炎の治療 |
【図2】雑巾がけ体操
両肘を伸ばして手をタオルの上に載せ、体を前に倒します。手が前に行き、肩は開く形になります。できるところまでいったら、ゆっくり体を戻します。これを20回繰り返します。1日3〜4セット行いましょう 通常、保存療法によって90%の患者さんの症状は改善します。まず、肩関節の安静と、消炎鎮痛薬の服用や副腎皮質ステロイド薬注入・ヒアルロン酸注入といった肩関節への注射療法で痛みを軽減させることが重要です。最近、レーザー治療も有効であることが分かりました。これはレーザー治療器を用いて肩の痛みのある部位にレーザー線を照射するだけの簡単なものですが効果的です。 |
【写真3】関節鏡視下手術
手術は1センチ以下の小さな皮膚切開で行います。肩に挿入した関節鏡画像をテレビモニターで見ながら手術を行います |
腱板断裂とは |
注意すべき点は、五十肩だからじき治るだろうと思っていて、なかなか治らないので検査してもらったら腱板断裂だったということが少なからずあることです。 |
肩関節周囲炎の予防 |
五十肩の予防には適度な運動が必要です。この場合、バーベルやマシーンを使った負荷のかかるトレーニングではなく、ラジオ体操で行うような背筋をのばして万歳する、あるいは大きく手を回すなどのストレッチ運動を毎日行うことが大切です。 |
今回執筆いただいたのは |
熊本大学大学院生命科学研究部
整形外科学分野 井手 淳二 准教授 ・日本整形外科学会専門医 ・日本リウマチ学会専門医 ・日本リハビリテーション医学会専門医 ・日本整形外科学会認定運動器リハビリ テーション医 ・日本体育協会公認スポーツドクター |