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「あれんじ」 2012年10月6日号

【四季の風】
第19回 露

 秋になり空気が冷えると、水蒸気が露になる。ほんの小さい露だが、「露」は、俳句の世界ではなかなか大きな季題である。夏から秋への季節の移(うつ)ろいを一番実感できるのが、秋風と露。白露(しらつゆ)、朝露、夜露、露の玉、それに、さっと降る時雨(しぐれ)のように一面に降りた様子を「露しぐれ」とも言うし、身ほとりが何となく露が満ちた思いのすることを「露けし」と言ったりする。「露」には、こうした透明感とはかなさがあって、私はこの季題が大好きだ。

神体は剣(つるぎ)に在(おわ)し露しぐれ   松本たかし

白露や死んでゆく日も帯締めて         三橋鷹女

 前者には、御神体の剣と全体を包む空気に透明感や緊張感があって、いかにも秋らしい。また後者の句の「白露」にこめられた作者の矜持(きょうじ)や生きざまが、何ともさわやか。
 私には露の句が多いが、たいていは旅先、しかも阿蘇のような山宿でできる。人より早く目覚めて、それこそ時雨のように一面に降りた草の露の中に身を置いているだけで、俳句ができる。まだ明けきらない闇のなか、心の芯まで露に濡れて、私もまた草の露の一粒となっていく。しばらくすると朝日が射して、あたり一面、きらきらと華厳(けごん)の光に包まれ、私はいよいよ荘厳(しょうごん)されて露けきことばをこぼすのである。

露けしと言ひて露けきわが身かな    岩岡中正
山を見て吾も露けくなりにけり        〃
一つぶの露のやうなる詩(うた)が欲(ほ)し  中正