【熊遊学(ゆうゆうがく)ツーリズム】
夢いっぱいの 「薬物動態学」
先端の研究者をナビゲーターに、熊本の知の世界を観光してみませんか! 熊本大学を中心に地元大学の教授や准教授が、専門の学問分野の内容を分かりやすく紹介する紙上の「科学館」「文学館」。それが「熊遊学ツーリズム」です。第18回のテーマは「薬物動態学」。さあ「なるほど!」の旅をご一緒に…。 |
【はじめの1歩】 |
世の中には、薬が大好きな人と大嫌いな人がいます。薬好きは、たとえ健康でも何かの薬を飲んでいないと落ち着かないようです。かと思えば、高熱が出ても薬と名のつくものは飲みたがらない人たちもいて、周りを困らせています。今回は、その「薬」…しかも聞き慣れない「薬物動態学」という分野の紹介です。いったい薬物の動きとはどういうことなのでしょうか? 頭の中は「?」マークいっぱいで、今井教授の研究室を訪ねました。 |
Point1 「薬物動態学」とは? |
「私たちが飲んだり、注射をした薬が、どの組織にどのように分布して、どうやって体から無くなっていくか、…つまり、薬が体内に入ってから出て行くまでのしくみを調べるのが『薬物動態学』です」と、熊本大学薬学部の今井輝子教授は語ります。 |
Point2 新薬開発の流れ |
新薬を作るには、まずよい薬になりそうな種となる化合物を探します。製薬会社によっては数万個もの化合物を作り、実験を重ねることで毒性が少なくてより効き目のあるものを探します。この実験は、動物などは使わず、試験管の中で細胞レベルあるいはタンパク質レベルで行います。このように、試験管の中で行う実験を「イン・ビトロ実験」と言います。そして、10個ぐらいにまで絞ったら、さらにその中から体内での動態のよいものを探します。 |
Point3 「プロドラッグ」と「アンテドラッグ」 |
1970年ごろから盛んに研究が進められてきた薬に「プロドラッグ」と「アンテドラッグ」と呼ばれる2種類の薬があります。 |
Point4 代謝に関わる酵素で、夢の新薬を! |
製薬会社では、開発に時間のかかる薬をできるだけ早く市場に出すために、代謝酵素の機能についてはあまり深く調べてはいません。代謝物が無毒だということが分かればいいからです。やはりそこは、大学の研究室が担うべき領域なのでしょう。 |
【なるほど!】 |
「薬」とは、体内で化学変化を起こす物質なのですね。コンピュータや携帯電話など、私たちの周りでは日々革新的な変化が起こっていますが、体内では「代謝」というすごい変化が起きていることも再認識しました。その「代謝」を利用した、私たちには想像もできないような新薬が誕生することを楽しみにしています。 |
【メモ1】 新薬ができるまで |
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【メモ2】 「プロドラッグ」の代表選手、 抗インフルエンザ薬と抗生物質 |
昨年12月に出たばかりの抗インフルエンザ薬「ラニナミビル」は、タミフルに似たプロドラッグです。ただし、タミフルは経口剤ですが、ラニナミビルは吸入薬です。 |
【メモ3】 ステロイドを上手に使おう |
ステロイドは、体内の副腎というところで作られる化合物で、生命活動になくてはならない分子です。外から大量に入ってくると、副腎がステロイドを作るのを止めてしまうので、やがて副腎が萎縮するという困った結果が起こります。そのため、ステロイドの入った薬剤を嫌う人が多いのですが、「アンテドラッグ型ステロイド」と書いてある場合は、すぐに毒性の低い分子に代謝されます。 |
ナビゲーターは |
熊本大学薬学部
病態薬効解析学講座 今井輝子教授 試験管とにらめっこしている姿は地味ですが、違う観点からの新薬開発という夢があるんですよ。 |