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「あれんじ」 2012年8月4日号

【慈愛の心 医心伝心】
【第二十三回】お母さんの好物は

女性医療従事者によるリレーエッセー 【第二十三回】

【第二十三回】お母さんの好物は
熊本市こころの健康センター 
所長(精神科医・医学博士)
井形 るり子

 ある講演会で、児童福祉の専門家が聴衆に問いかけました。「お母さんの好物って何だと思いますか?」。私は即座にシュークリームを思い浮かべてにんまりしましたが、専門家は「それは、長男の…」と続けました。「えっ、あの汗臭い?」。私は一気に現実に引き戻されました。その専門家は、「お母さんの好物は、長男の自立の芽だ」と言うのです。
 長男の自立の芽が出てくると、すぐにむしって食べてしまうのだそうです。口の中がなんだか塩辛くなってしまいました。それと同時に、福岡の薬物依存回復施設の責任者が言ったことを思い出しました。「依存症を治そうと思って遠方の回復施設に入ったけど、ある日家に逃げ帰りました。母親はドアを開け家に入れてくれました。その母親が死んで初めて自分の回復が始まりました」。施設に追い返さなかった母親は、実は結果的に回復を邪魔していたわけです。
 今年4月にオープンした「熊本市こころの健康センター」では、依存症家族教室を開催しています。そこでは家族のアルコールやギャンブルなどの依存症に悩む人々が集い、本人の回復のために家族が何をするべきかを学んでいます。依存症家族のためにしばしば引用される〈ゲシュタルトの祈り〉という詩をご紹介しましょう。
 「私は私のために生きる。あなたはあなたのために生きる。私は何もあなたの期待に応えるために、この世に生きているわけじゃない。そして、あなたも私の期待に応えるために、この世にいるわけじゃない」。この続きが気になる方は、ぜひ家族教室においでください。