【熊遊学(ゆうゆうがく)ツーリズム】
意外に面白い!? 物性物理学
先端の研究者をナビゲーターに、熊本の知の世界を観光してみませんか! 熊本大学を中心に地元大学の教授や准教授が、専門の学問分野の内容を分かりやすく紹介する紙上の「科学館」「文学館」。それが「熊遊学ツーリズム」です。第16回のテーマは「物性物理学」。さあ「なるほど!」の旅をご一緒に…。 |
【はじめの1歩】 |
物理学は化学に次いで苦手な分野。でも、大学レベルなら面白い話が聞けるかもしれません。今をときめく最先端の物理学とは、いったいどんな内容なのでしょうか? |
Point1 「物性物理学」とは? |
「物性物理学」とは、文字通り“物の性質を調べる学問”です。「物質には、例えば電気が流れるものと流れないもの、磁石になるものとならないものがありますね。私たちの研究は、なぜ電気が流れるのか? なぜ磁石になるのか? などを調べることです」と、熊本大学大学院自然科学研究科の原正大准教授は語ります。 |
Point2 「量子力学」の世界 |
髪の毛の直径は数十マイクロメートル(ミクロン)ですが、1ミクロンよりサイズが小さくなると、人間の目には見えなくなります。1ミクロンの千分の一である1ナノメートルは、分子1個分ほどのサイズです。原准教授の研究対象はこの大きさの物質です。このようなスケールの研究を「メゾスコピック物理学」(メモ1)といいます。 |
Point3 「人工原子」 |
テクノロジーの進歩は、今や「人工原子」を作るところまで来ています。 |
Point4 「分子トランジスタ」を目指して |
パソコンやスマートフォンなどに使われているトランジスタは、今ではかなり小型化・超密度化されています。“ICチップ1個当たりのトランジスタの数は、約2年ごとに倍増する”という半導体技術の進化速度を予測する「ムーアの法則」に照らしてみると、2020年ごろにはトランジスタは原子サイズまで小型化してしまうことになります。 |
Point5 「ナノ磁性」の研究 |
原准教授の研究の一つに「ナノ磁性」の研究があります。電子の「スピン」(メモ3)に着目した技術で、パソコンなどの電子機器に含まれている多数の微小な磁石の状態を制御・検出する手法の開発を目指しています。 |
【メモ1】 「メゾスコピック物理学」とは? |
英語で大きいサイズのものに対する視点を「マクロスコピック」、小さいサイズのものに対する視点を「ミクロスコピック」と言います。その中間という意味で「メゾスコピック」という言葉が造られました。「メゾスコピック物理学」とは、1ナノメートル以上、1ミクロン以下の世界を扱う物理学の分野を指します。 |
【メモ2】「量子コンピュータ」とは? |
これまでのコンピュータは、スイッチのオン・オフ…つまり「1」と「0」の2進法で情報を処理しています。スイッチの役割をしているのが、ICチップの中にあるトランジスタです。情報処理能力を上げるにはトランジスタの数を増やす必要がありますが、そのためにはトランジスタのサイズを小さくしていくしかありません。 |
【メモ3】電子の「スピン」とは? |
電子はマイナスの電荷を持っています。その電子の流れを「電流」と言いますが、同時に電子は「スピン」と呼ばれるコマ状の回転(自転)に相当する性質も持っています。物質の中には多数の電子によるスピンが存在しますが、それらの向きが同じ方向にそろうことで磁石になる事が分かっています。これまでは電子の電荷のみを活用していましたが、現在ではスピンもエレクトロニクスに積極的に活用する試みが進んでいます。このような新しい分野を、「スピン」と「エレクトロニクス」を組み合わせた造語「スピントロニクス」と言います。 |
ナビゲーターは |
熊本大学大学院
自然科学研究科(理学専攻) 物理科学講座 原正大准教授 ナノの世界は自由度が高く、 |