【専門医が書く 元気!の処方箋】
「骨粗しょう症」を正しく知ろう
年を取ったら骨が弱くなる…。それが骨粗しょう症だと思っていませんか? 加齢は発症の背景にありますが、骨の生理的な老化現象と骨粗しょう症は異なります。骨折などを予防し、快適な生活を送るためにも、正しく理解したいものです。そこで今回は、骨粗しょう症についてお伝えします。 |
はじめに |
骨粗しょう症は、骨の強度が弱くなって骨折しやすくなる病気です。高齢者人口の増加に伴ってその数は増える傾向にあります。日本では約1280万人の患者さんがいるといわれており、男性の300万人に比べて女性は3倍以上の980万人と推測されています。 |
症状 |
骨粗しょう症は自覚症状の乏しい病気です。背中が丸くなる、身長が縮むといった症状がおこりますが、それらは徐々に進むためなかなか病気であると気がつきません。骨粗しょう症の最大の合併症は骨折です。つまずいて転んだ、家具にぶつかったなどの、若い人ではまず考えられないようなちょっとしたはずみで骨が折れたり、体の重みが加わるだけで骨がつぶれてしまうことがあります。骨折すると、その部分が痛くて動かせなくなります。 |
【骨が弱くなるしくみ】 |
【図1】骨のリモデリング
骨は主にカルシウムやリンなどのミネラルとタンパク質のコラーゲンからできています。鉄筋コンクリートの建物に例えると、ミネラルがコンクリート、コラーゲンが鉄筋に相当します。骨の中のミネラルの詰まり具合が骨密度を、コラーゲンの構造が骨質を反映します。そして骨の強度は、骨密度が70%、骨質が30%担っています。 |
原因 |
【図2】骨密度の年齢に伴う変化
(概念図) 骨粗しょう症の原因はいろいろありますが、その背景には加齢があります。 |
検査・診断 |
骨粗しょう症かどうかは自治体で行っている健康診断でも調べることができます。保健所や委託された医療機関で骨密度測定が可能です。腰背痛などの症状や骨折が生じれば、整形外科を受診して検査を受けることが多いのですが、内科や婦人科などでも検査を受けることができます。医療機関では、問診、X線検査、骨密度測定、尿や血液検査などが行われます。骨密度の測定方法はDXA(デキサ)法、超音波法、MD法、CT法などがあります。骨粗しょう症の診断は、これまでにちょっとしたこと(軽微な外力)で骨折したことがあるというような病歴と骨密度の値によって決定されます。 |
【自己評価法】 |
【図3】
椎体骨折早期発見のための 簡易スクリーニング方法 椎体骨折の自己発見のために簡易スクリーニング法が提唱されています(図3)。ひとつは、壁にかかとと背中をつけたときに後頭部も壁につくかどうか、もうひとつは、前習いして、後の人に肋骨(ろっこつ)の下端と骨盤の上端の間に手を入れてもらったとき、指が3本以上入るかどうかです。もし後頭部が壁につかない、もしくは指が2本以下しか入る幅がない場合は、椎体骨折の可能性が疑われます。 |
治療 |
【図4】骨粗しょう症の治療
骨粗しょう症の治療は、骨折を予防し、QOLの維持改善を図ることが目的となります。 |
◎食事療法 |
おわりに |
最近の調査で、骨粗しょう症による骨折は死亡率を上昇させることが分かってきました。わが国では大腿骨近位部骨折患者の1年後死亡率は約10―20%といわれていますが、死亡の予測度は骨折していない人と比べて、男性で約4倍、女性で約3倍に高まります。脊椎に変形があり骨密度が低い高齢女性では、死亡の危険性が1・5倍高くなります。脊椎や大腿骨近位部以外の骨折でも、男女ともに死亡率は約2倍に高くなります。骨粗しょう症は、がんや脳卒中、心筋梗塞のように生命をおびやかす病気ではないと考えられがちです。しかし、いったん骨折を生じると生命に危険をもたらす病気といえます。最近背中が丸くなった、身長が縮んだと思う人、あるいは骨粗しょう症が心配な人は、健康診断や医療機関での検査を積極的に受けましょう。 |
今回執筆いただいたのは |
熊本大学医学部附属病院
医療情報経営企画部 廣瀬 隼講師 日本整形外科学会専門医 日本整形外科学会リウマチ医 日本リウマチ学会リウマチ専門医 日本体育協会スポーツドクター |