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「あれんじ」 2012年3月3日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
「骨粗しょう症」を正しく知ろう

 年を取ったら骨が弱くなる…。それが骨粗しょう症だと思っていませんか? 加齢は発症の背景にありますが、骨の生理的な老化現象と骨粗しょう症は異なります。骨折などを予防し、快適な生活を送るためにも、正しく理解したいものです。そこで今回は、骨粗しょう症についてお伝えします。

はじめに

 骨粗しょう症は、骨の強度が弱くなって骨折しやすくなる病気です。高齢者人口の増加に伴ってその数は増える傾向にあります。日本では約1280万人の患者さんがいるといわれており、男性の300万人に比べて女性は3倍以上の980万人と推測されています。


症状

 骨粗しょう症は自覚症状の乏しい病気です。背中が丸くなる、身長が縮むといった症状がおこりますが、それらは徐々に進むためなかなか病気であると気がつきません。骨粗しょう症の最大の合併症は骨折です。つまずいて転んだ、家具にぶつかったなどの、若い人ではまず考えられないようなちょっとしたはずみで骨が折れたり、体の重みが加わるだけで骨がつぶれてしまうことがあります。骨折すると、その部分が痛くて動かせなくなります。
 骨折しやすい部位は、背骨(椎体)、腕の付け根の骨(上腕骨近位部)、手首の骨(橈骨遠位部)、太ももの付け根の骨(大腿骨近位部)などです。椎体骨折はもっとも頻度の高い骨粗しょう症性の骨折です。わが国では70歳代前半の25%、80歳以上では43%に椎体骨折が認められます。しかも70歳以降では、その半数以上が2個以上の椎体に骨折があり、5人に1人は最初の骨折から1年以内に2度目の骨折をおこします。大腿骨近位部骨折では、5年以内に再び骨折をおこす危険性が、骨折したことのない人に比べて17倍も高くなります。
 つまり、骨粗しょう症で一度骨折をおこすと、次々に骨折する危険性が高くなります。骨折が原因で要介護や寝たきりの状態になることもあり、生活の質(QOL)が著しく低下します。


【骨が弱くなるしくみ】
【図1】骨のリモデリング

 骨は主にカルシウムやリンなどのミネラルとタンパク質のコラーゲンからできています。鉄筋コンクリートの建物に例えると、ミネラルがコンクリート、コラーゲンが鉄筋に相当します。骨の中のミネラルの詰まり具合が骨密度を、コラーゲンの構造が骨質を反映します。そして骨の強度は、骨密度が70%、骨質が30%担っています。
 出来上がった骨は一生涯そのままではありません。古くなった部分は壊され(骨吸収)、新しい骨が作られて(骨形成)置き換わります。これを骨の新陳代謝(リモデリング)といい、骨吸収を担うのが破骨細胞、骨形成を担うのが骨芽(こつが)細胞です(図1)。骨のリモデリングのバランスが悪くなり、骨吸収が骨形成より盛んになると、骨密度が低下し骨質が劣化して、骨がスカスカになります。これが骨粗しょう症です。


原因
【図2】骨密度の年齢に伴う変化
(概念図)

 骨粗しょう症の原因はいろいろありますが、その背景には加齢があります。
 骨密度は学童期から思春期にかけて高まり、20歳頃に最大となり、40歳代半ばまではほぼ一定に維持されます(図2)。その後、緩やかに減少し、男性では70歳以降急速に低下していきます。女性の場合は、閉経期を迎えて女性ホルモンの分泌が低下すると急激に骨密度が減り、同年代の男性に比べて骨密度が低くなります。
 また、骨質のコラーゲンは男女ともに30〜40歳代まで増加してピークに達した後に減少していきます。ですから、中高年以降は、加齢とともに骨の強度は弱くなりますが、これは骨の生理的な老化現象です。
 これに対して、骨粗しょう症は骨の病的な老化です。遺伝素因、食事や運動の習慣などが関与して、より一層骨が弱くなる場合です。お酒の飲み過ぎや喫煙もよくありません。そのほかにも副甲状腺機能亢進症、関節リウマチ、糖尿病などの病気や、胃切除後、ステロイド薬の長期服用なども骨粗しょう症の原因となります。


検査・診断

 骨粗しょう症かどうかは自治体で行っている健康診断でも調べることができます。保健所や委託された医療機関で骨密度測定が可能です。腰背痛などの症状や骨折が生じれば、整形外科を受診して検査を受けることが多いのですが、内科や婦人科などでも検査を受けることができます。医療機関では、問診、X線検査、骨密度測定、尿や血液検査などが行われます。骨密度の測定方法はDXA(デキサ)法、超音波法、MD法、CT法などがあります。骨粗しょう症の診断は、これまでにちょっとしたこと(軽微な外力)で骨折したことがあるというような病歴と骨密度の値によって決定されます。


【自己評価法】
【図3】
椎体骨折早期発見のための
簡易スクリーニング方法

 椎体骨折の自己発見のために簡易スクリーニング法が提唱されています(図3)。ひとつは、壁にかかとと背中をつけたときに後頭部も壁につくかどうか、もうひとつは、前習いして、後の人に肋骨(ろっこつ)の下端と骨盤の上端の間に手を入れてもらったとき、指が3本以上入るかどうかです。もし後頭部が壁につかない、もしくは指が2本以下しか入る幅がない場合は、椎体骨折の可能性が疑われます。
 また最近では、将来の10年間に骨折するかどうかを予測するツール(FRAX)が開発されて、インターネットで簡単に計算できます。ただし、75歳以上の女性ではほとんどが骨折を起こす計算となるので、結果の解釈には注意が必要です。


治療
【図4】骨粗しょう症の治療

 骨粗しょう症の治療は、骨折を予防し、QOLの維持改善を図ることが目的となります。
 まず予防として、成長期に骨密度を増加させて、十分に蓄えておくことが重要です。そのためには、若年期からよい食習慣と運動習慣を身につける必要があります。次に、中高年においては、骨密度の減少を予防するように心がけなければなりません。特に閉経後の女性ではさらなる骨密度の減少を食い止めるために、バランスのとれた食事と適度な運動を継続することが大切です。さらに高齢者において、骨量がすでに著しく低下していれば、食事療法と運動療法だけでなく、薬物療法が必要になります(図4)。
 医療機関で骨粗しょう症と診断され、骨折の危険性ありと判断された場合に、薬物治療は開始されます。また、転倒防止のための教育や環境整備も重要です。もし骨折したら、それに応じてギプス固定や手術が必要になります。


◎食事療法

 骨の材料となるカルシウムを十分にとりましょう。カルシウムはビタミンDと同時にとることにより、腸管での吸収率がよくなります。ビタミンDは太陽光の紫外線により活性化するので、一日30分ほどの日光浴をしましょう。また、ビタミンKのほか、タンパク質やミネラルなどの栄養素を摂取することで骨の形成が促されます。無理なダイエットや偏食を避けて、食事全体の栄養バランスやカロリー量にも気を配りましょう。お酒は控えめにして、禁煙に努めることも大切です。

◎運動療法

 骨密度を増やして骨を丈夫にするためには、骨に「体重をかける」動作が大切です。宇宙飛行士が、地球に帰ってきたときに骨が弱くなっていることはよく知られています。また運動は、筋力を維持して、反射神経をよくするので、転倒予防にも有効です。ウオーキング、ジョギング、エアロビクスなどの運動がすすめられます。ただし、運動習慣のない中高年の人にとって強い運動は要注意です。重い物を持ち上げる、強く体をねじる、転倒の危険がある動作は避けましょう。普段の生活で、立っている時間を長くする、階段を積極的に使う、家の掃除をする、買い物に歩いて行くなど、無理をせずに体を動かすことから始めましょう。外出して散歩をすれば、日光浴も同時にできます。

◎薬物療法

 薬物療法は骨密度を増加させ、治療の目的である骨折の危険性を減らすことができます。骨粗しょう症の治療薬は、新たなものが次々に開発されてきており、治療の選択肢は今後さらに広がります。しかし、食事療法と運動療法をきちんと行わなければ、その効果は減弱します。医師から処方される薬を服用するだけでなく、総合的な観点から治療することが重要です。


おわりに

 最近の調査で、骨粗しょう症による骨折は死亡率を上昇させることが分かってきました。わが国では大腿骨近位部骨折患者の1年後死亡率は約10―20%といわれていますが、死亡の予測度は骨折していない人と比べて、男性で約4倍、女性で約3倍に高まります。脊椎に変形があり骨密度が低い高齢女性では、死亡の危険性が1・5倍高くなります。脊椎や大腿骨近位部以外の骨折でも、男女ともに死亡率は約2倍に高くなります。骨粗しょう症は、がんや脳卒中、心筋梗塞のように生命をおびやかす病気ではないと考えられがちです。しかし、いったん骨折を生じると生命に危険をもたらす病気といえます。最近背中が丸くなった、身長が縮んだと思う人、あるいは骨粗しょう症が心配な人は、健康診断や医療機関での検査を積極的に受けましょう。


今回執筆いただいたのは
熊本大学医学部附属病院
医療情報経営企画部
廣瀬 隼講師

日本整形外科学会専門医
日本整形外科学会リウマチ医
日本リウマチ学会リウマチ専門医
日本体育協会スポーツドクター