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「あれんじ」 2011年12月3日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
気になる病気大人のアトピー性皮膚炎

 一般に乳幼児や小児の病気として認知されているアトピー性皮膚炎ですが、大人になって発症する人も少なくありません。顔に症状が出ることも多く、早く治したいとあせってしまうことも多いと聞きます。今回は、大人のアトピー性皮膚炎についてお伝えします。

アトピー性皮膚炎とはどんな病気ですか?
【図1】皮膚の構造 
皮膚は表面より表皮、真皮、皮下組織よりなり、表皮は、下から基底層、有棘層、顆粒層、角層の4層よりなる。

 人間の皮膚は、表面より表皮、真皮、皮下組織よりなります。表皮は0・2ミリ程度の厚さしかありませんが、20〜30層の角化細胞と呼ばれる細胞が重なり合ってできています。この角化細胞は、基底細胞→有棘(ゆうきょく)細胞→顆粒(かりゅう)細胞と成長し、角層になります(図1)。この角層が、私たちの体を守る最も大切なバリアーです。古くなった角層は、ふけやあかとなって落ちていきます。アトピー性皮膚炎は、この角層に異常があるために、皮膚が乾燥して、バリアー機能に異常を来した状態です。そこには、いろいろな刺激やアレルギー反応が関係していると考えられます。


アトピー性皮膚炎の診断は?

 アトピー性皮膚炎は、@皮膚の症状 A経過 B家族歴・既往歴を併せて診断します。従って、一度病院を受診しただけでは診断できません。採血検査(表1)や治療を行いながら診断していきます。湿疹や魚鱗癬などアトピー性皮膚炎と似ている病気がたくさんあります(表2)ので、自己判断しないで、専門医の診察を受けてください。


アトピー性皮膚炎の原因は何ですか?

 さまざまな原因があります。患者の多くはアトピー素因を持つと考えられます。アトピー素因とは、@家族歴・既往歴がある。つまり、本人または家族に気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれか、あるいは複数の病気があること Aアレルギーに最も関係が深いとされているIg E抗体を作りやすい体質があること です。最近の研究では、アトピー性皮膚炎と関連する遺伝子の異常が数多く見つかっています。しかし、遺伝子異常がある人が、すべてアトピー性皮膚炎になるわけではなく、その発症には多くの環境因子が関係すると考えられています。


大人でもアトピー性皮膚炎になるのですか?

 2007年に行われた皮膚科受診患者の全国調査によれば、アトピー性皮膚炎で皮膚科を受診する患者は、0〜5歳と21〜25歳の二つのピークがあることが分かりました。さらに、全体の9%以上が46歳以上の患者でした(図2)。つまり、アトピー性皮膚炎は、決して子どもの病気ではなく、大人になってからも発病する病気です。大人になって発病したアトピー性皮膚炎は、顔の症状が重く(図3)、治りにくいのが特徴です。


アトピー性皮膚炎は治るのですか?

 アトピー性皮膚炎は慢性の病気ですが、正しく治療して、症状をうまくコントロールすることにより治る可能性がある病気です。特に小児のアトピー性皮膚炎では、皮膚が良好な状態を続けることで多くの患者は治ります。しかしながら、治療をしないまま放置したり、不適切な治療をすることにより症状を悪化させることで、治る時期が来ても治らない例が少なくありません。


アトピー性皮膚炎の治療はどうすればいいのですか?

 アトピー性皮膚炎の治療は、完全に治ることを目標におくべきではありません。短期間で完全に治ることはないからです。皮膚の症状を良好な状態に保つことで、自然に治るのを待つ病気です。ここで言う良い状態とは、@症状がない。あっても、生活に支障がなく、薬を飲まなくてすむ A軽い症状はあるが、急に悪化することはまれで、悪化しても短い期間でよくなる ことを言います。
 アトピー性皮膚炎の薬物療法は、外用療法(塗り薬)と内服療法(飲み薬)に分けられます。


【◎外用療法】
 アトピー性皮膚炎の炎症をとる効果がある塗り薬は、ステロイド(副腎皮質ホルモン)軟膏(なんこう)と免疫抑制剤(タクロリムス軟膏)だけです。その他に、非ステロイド系消炎剤の塗り薬も使われますが、かぶれを起こすことが多く、効果も十分とは言えません。
 タクロリムス軟膏は、成人のアトピー性皮膚炎、特に「赤ら顔」に対しては非常に効果的です。ただし、キズのある皮膚には使用しないなどの制限もありますので専門医の指導の下で使ってください。
 ステロイド軟膏は、アトピー性皮膚炎をはじめとする皮膚炎の治療には欠かすことのできない塗り薬です。その副作用のために、ステロイドアビュース(ステロイド忌避)という言葉があるように、ステロイド軟膏を不当に忌み嫌う人もいます。しかし、ステロイド軟膏なくしてはアトピー性皮膚炎の治療はできないのが現状です。
 ステロイド軟膏は、その効果順に5群に分けられます。効果が高いと副作用は強くなりがちです。ただし、副作用の発現は、ステロイド軟膏の強さだけではなく、使用する部位、回数、治療期間に影響されます。症状が強い時には、弱いステロイド軟膏を長く続けるよりも、強いステロイド軟膏を短期間使用する方が治療効果も高く、副作用も少なくてすみます。症状が軽くなるに従って、塗る回数を減らしたり、弱いステロイド軟膏に変更する必要があります。
 つまり、アトピー性皮膚炎に対するステロイド軟膏治療は、その症状に合ったものを選択して、症状の変化に応じて種類や塗り方を変えていかなければいけません。そのため、やはり専門医の指導の下で行う必要があります。

【◎スキンケア】
 アトピー性皮膚炎の治療で大切なことは、ステロイド軟膏による治療と同時にスキンケアを行うことです。そのためには、保清(皮膚を清潔に保つこと)と保湿が大切です。適切な入浴やシャワーにより皮膚についた花粉やごみを落とし、皮膚を乾燥させないように保湿剤を使います。特に入浴後、皮膚が乾燥する前に使用することをお勧めします。保湿剤には様々なものがあります(表3、図4)が、含まれる薬剤によっては、刺激感があるため症状に合ったものを選択する必要があります。
 つまり、アトピー性皮膚炎の外用療法においては、症状が強いときには、強めのステロイド軟膏やプロトピック軟膏を外用します。症状が軽快するに従って、ステロイド軟膏を弱めのものに変更したり、塗る回数を減らしていきます。保湿剤を併用しながら、皮膚症状が良くなるにつれて、保湿剤の外用によるスキンケアを中心にしていくことが大切です。

【◎内服療法】
 アトピー性皮膚炎の特徴は、かゆみを伴うことです。かゆみは、かくことでさらに強くなります。つまり、 かゆみ → かく → 湿疹の 増悪 → かゆみの増悪 という悪循環に陥ります。これを防ぐには、かゆみ止めの内服が必要です。かゆみ止めは、大きく抗ヒスタミン剤(第一世代抗ヒスタミン剤)と抗アレルギー剤(第二世代抗ヒスタミン剤)に分けられます。
 抗ヒスタミン剤には眠気の副作用があるものが多く、自動車の運転などには注意が必要です。一方、最近の抗アレルギー剤には、眠気が全くなく、かゆみだけを抑えてくれるものもあります。アトピー性皮膚炎は、かくことにより増悪する病気であり、かゆみを抑えることは治療の基本です。かゆいときには積極的に内服療法を行う必要があります。

【◎重症のアトピー性皮膚炎の治療】
 大人のアトピー性皮膚炎では、外用療法や内服療法を行っても症状のコントロールができないような重症の場合も少なくありません。そのような、大人の重症アトピー性皮膚炎に対しては、免疫抑制剤(シクロスポリン)による治療が保険で認められています。その他にも、特殊な紫外線を用いた治療なども行われています。いずれも専門的な治療なので皮膚科専門施設で行われます。


アトピービジネスとは何ですか?

 アトピー性皮膚炎患者をターゲットとした悪徳商法のことを通称アトピービジネスと言います。アトピー性皮膚炎は、難治性の慢性的な病気です。短期間の治療で治ることはありません。治らないことがあせりとなって、さまざまな治療を試すことになりがちです。アトピー性皮膚炎の治療で最も大切なことは、専門医の下で、あせらずに根気よく治療を続けていくことです。


今回執筆いただいたのは
熊本大学医学部附属病院
皮膚科
井上 雄二准教授

医学博士
皮膚科専門医
皮膚悪性腫瘍指導専門医
がん治療認定医