【専門医が書く 元気!の処方箋】
気になる病気大人のアトピー性皮膚炎
一般に乳幼児や小児の病気として認知されているアトピー性皮膚炎ですが、大人になって発症する人も少なくありません。顔に症状が出ることも多く、早く治したいとあせってしまうことも多いと聞きます。今回は、大人のアトピー性皮膚炎についてお伝えします。 |
アトピー性皮膚炎とはどんな病気ですか? |
【図1】皮膚の構造
皮膚は表面より表皮、真皮、皮下組織よりなり、表皮は、下から基底層、有棘層、顆粒層、角層の4層よりなる。 人間の皮膚は、表面より表皮、真皮、皮下組織よりなります。表皮は0・2ミリ程度の厚さしかありませんが、20〜30層の角化細胞と呼ばれる細胞が重なり合ってできています。この角化細胞は、基底細胞→有棘(ゆうきょく)細胞→顆粒(かりゅう)細胞と成長し、角層になります(図1)。この角層が、私たちの体を守る最も大切なバリアーです。古くなった角層は、ふけやあかとなって落ちていきます。アトピー性皮膚炎は、この角層に異常があるために、皮膚が乾燥して、バリアー機能に異常を来した状態です。そこには、いろいろな刺激やアレルギー反応が関係していると考えられます。 |
アトピー性皮膚炎の診断は? |
アトピー性皮膚炎は、@皮膚の症状 A経過 B家族歴・既往歴を併せて診断します。従って、一度病院を受診しただけでは診断できません。採血検査(表1)や治療を行いながら診断していきます。湿疹や魚鱗癬などアトピー性皮膚炎と似ている病気がたくさんあります(表2)ので、自己判断しないで、専門医の診察を受けてください。 |
アトピー性皮膚炎の原因は何ですか? |
さまざまな原因があります。患者の多くはアトピー素因を持つと考えられます。アトピー素因とは、@家族歴・既往歴がある。つまり、本人または家族に気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれか、あるいは複数の病気があること Aアレルギーに最も関係が深いとされているIg E抗体を作りやすい体質があること です。最近の研究では、アトピー性皮膚炎と関連する遺伝子の異常が数多く見つかっています。しかし、遺伝子異常がある人が、すべてアトピー性皮膚炎になるわけではなく、その発症には多くの環境因子が関係すると考えられています。 |
大人でもアトピー性皮膚炎になるのですか? |
2007年に行われた皮膚科受診患者の全国調査によれば、アトピー性皮膚炎で皮膚科を受診する患者は、0〜5歳と21〜25歳の二つのピークがあることが分かりました。さらに、全体の9%以上が46歳以上の患者でした(図2)。つまり、アトピー性皮膚炎は、決して子どもの病気ではなく、大人になってからも発病する病気です。大人になって発病したアトピー性皮膚炎は、顔の症状が重く(図3)、治りにくいのが特徴です。 |
アトピー性皮膚炎は治るのですか? |
アトピー性皮膚炎は慢性の病気ですが、正しく治療して、症状をうまくコントロールすることにより治る可能性がある病気です。特に小児のアトピー性皮膚炎では、皮膚が良好な状態を続けることで多くの患者は治ります。しかしながら、治療をしないまま放置したり、不適切な治療をすることにより症状を悪化させることで、治る時期が来ても治らない例が少なくありません。 |
アトピー性皮膚炎の治療はどうすればいいのですか? |
アトピー性皮膚炎の治療は、完全に治ることを目標におくべきではありません。短期間で完全に治ることはないからです。皮膚の症状を良好な状態に保つことで、自然に治るのを待つ病気です。ここで言う良い状態とは、@症状がない。あっても、生活に支障がなく、薬を飲まなくてすむ A軽い症状はあるが、急に悪化することはまれで、悪化しても短い期間でよくなる ことを言います。 |
【◎外用療法】 |
アトピービジネスとは何ですか? |
アトピー性皮膚炎患者をターゲットとした悪徳商法のことを通称アトピービジネスと言います。アトピー性皮膚炎は、難治性の慢性的な病気です。短期間の治療で治ることはありません。治らないことがあせりとなって、さまざまな治療を試すことになりがちです。アトピー性皮膚炎の治療で最も大切なことは、専門医の下で、あせらずに根気よく治療を続けていくことです。 |
今回執筆いただいたのは |
熊本大学医学部附属病院
皮膚科 井上 雄二准教授 医学博士 皮膚科専門医 皮膚悪性腫瘍指導専門医 がん治療認定医 |