肥後医育塾公開セミナー

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平成20年度 第3回公開セミナー「見直そう! 肩・腰・膝の痛み」

【講師】
熊本中央病院診療部長
岡嶋 啓一郎

『中高年の腰痛・下肢痛について』
急性期は「安静」が基本 生活の工夫、筋力強化も


  日本人の約80%が「一生に一度は腰痛を経験する」といわれるほど、近年、腰痛に悩む人が増えています。
 腰痛の原因の一つである脊柱(背骨)は、円柱型の椎体(ついたい)という骨がブロックを積み重ねた柱のような形を成し、体の前後左右への曲げ伸ばしや、ひねりなどの運動ができる構造になっています。5つある腰椎骨のうち、4、5番目の骨の間にある椎間板に負荷が掛かりやすく、腰痛などの障害が起きやすくなります。
 俗に言う「ぎっくり腰」は、数日間、腰に負担を掛けないよう安静にしていれば治ります(保存療法)。慢性腰痛の場合、保存療法でも痛みが治まらない場合は、消炎・鎮痛剤を中心に組み合わせた薬剤を服用します。また、下肢の痛みに対しては「神経ブロック療法」といって、麻酔剤を神経に直接注射するケースもあります。この方法は非常に有効ですが、何度も繰り返すと、神経の癒着を引き起こすため、1〜2週間に1回ずつ、5、6回程度にとどめます。
 安静を守っても痛みが治まらず、痛みやしびれが、足まで走るようなら、骨や神経の病気が起きていることが考えられます。
 この症状で多いのが、椎間板ヘルニアと腰部脊柱管狭窄(ようぶせきちゅうかんきょうさく)症です。椎間板は椎骨と椎骨に挟まれた組織で、クッションの働きをしています。中央に軟らかい髄核(ずいかく)があり、その周囲を、比較的硬い軟骨が幾重にも囲んでいます。これによって、背骨に上下から加わる力を均一に分散させ、衝撃を和らげています。しかし、この椎間板は二十代ごろから変性が始まり、弾力性がなくなり、所々に亀裂が生じるようになります。“人生50年"ではありませんが、椎間板も耐用は約50年です。ただし、その衰えは60歳くらいでストップし、再び安定化に向かうため、そう悲観する必要はありません。
 椎間板ヘルニアの痛みは、椎間板に強い力が加わることで髄核が亀裂から押し出され、それが神経根を圧迫するために起きます。
 治療法として、消炎鎮痛剤を内服して安静にしていれば、数日から1週間ほどで落ち着きます。しかし、炎症は消えてもヘルニアが消滅するわけではないので、症状が慢性化しないよう、腹筋、背筋の筋力強化(腰痛体操)や姿勢を正しくすることが大切です。
 腰部脊柱管狭窄症は60歳以上の男性に多く発症します。椎間板が薄くなることや、脊椎の縁に「骨棘(こつきょく)」と呼ばれる、とげ状の突起が見られる、などの老化による変形が原因です。
 症状は足が次第にしびれて力が入らなくなり、もつれるようになります。しかし、しゃがんだり、いすに腰掛けたりするなどして休憩すると症状が消え、再び歩けるようになります。治療法としては椎間板ヘルニアと同じような治療を行いますが、日常生活が強く制限される場合は手術が有効です。
 腰痛の対処法は保存療法が基本で、特に急性期は「安静第一」を心掛けることが大切です。ある程度痛みが緩和されたら腰痛体操などを行い、付き合っていくと、何とかなることが多いです。手術や投薬が必要な場合は、自分で判断せず、近くの整形外科で適切な指示を仰いでください。