肥後医育塾公開セミナー

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平成20年度 第3回公開セミナー「見直そう! 肩・腰・膝の痛み」

【講師】
熊本大学大学院医学薬学研究部運動骨格病態学分野准教授
井手 淳二

『肩こりと肩の痛みについて』
肩周囲筋の疲労で発症 姿勢改善と運動療法を


  肩凝りは、長時間座ったままの状態で仕事をしたときなどに、筋肉が長時間緊張を強いられるために疲労して起きます。
 人は日常、肩甲骨(けんこうこつ)の周りの筋肉で両腕を支える運動を行っていますが、この筋肉は手や腕を使う動作すべてにかかわっていて、常に働いています。筋肉は緊張すると硬くなります。すると、筋肉の中を走っている血液の流れが悪くなり、酸素供給が不十分になり、乳酸という老廃物が作られて筋肉の中にたまってしまいます。これが肩凝りの痛みの原因になります。
 最近はパソコンによる肩の悩みを訴える人が増えました。パソコン操作は手の指を使うだけと思われるかもしれませんが、実際は肩に相当な負担が掛かっています。
 一般にいう「五十肩」は、加齢により関節が硬くなるのに加え、一種の炎症性反応が起きて生じる現象で、正式には「肩関節周囲炎」といいます。本来は軟らかい筋肉や関節が、硬い組織で置き換えられていくようになります。最初は痛みだけですが、徐々に肩が硬くなり万歳ができなくなります。
 肩凝りや「五十肩」は中高年になれば誰にでも起きるものと思われがちですが、あきらめてはいけません。予防は可能です。
 最も大切なのが姿勢。猫背、なで肩、首が前に傾いた体型は肩凝りを起こしやすい典型です。良い姿勢の基本は、あごを引き、背筋を伸ばし、おなかを引っ込めます。姿勢矯正のための肩甲骨バンドという装具がありますが、使った方の多くが、肩凝りや肩の痛みの改善に効果を認めています。
 そこでお勧めしたいのが「肩すくめ体操」。息を吸いながら胸を張って両肩を上げ、息を吐きながらゆっくり下ろす簡単な体操です。この体操と併せて姿勢を良くすると、肩凝りに効果的です。
 次に運動不足の解消。肩関節は、人の関節の中で最も大きく動かすことができ、あらゆる方向に可動します。しかし「五十肩」になると、日常生活で使える範囲が限られてきます。その結果、肩の筋肉はどんどん衰えていきます。
 肩を鍛える運動として「壁押し運動」をお勧めします。肩や首、背中の筋力を保ち筋肉を動かすことで、血液の循環を良くします。壁押し運動は、壁に向かって行う「腕立て伏せ」です。方法は(1)壁から30〜40cmほど距離を置き、両手のひらを胸の高さに合わせ、壁に当てる(2)真っすぐ立った姿勢のまま、両手のひじを屈伸し、壁に腕立て伏せをする―。これだけの運動です。
 また「五十肩」には、「ぞうきんがけ体操」が、硬くなった肩の動きの解消に効果的です。机の上にぞうきんを置き、その上に両手を置いて、肩に力を入れずひじを伸ばして体を前に倒し、ゆっくり前後をふく―。この運動も至って簡単で、肩に負担が掛かりません。自分の体力に合わせて回数を決め、毎日欠かさずやってみましょう。
 肩凝りは内科、眼科、耳鼻科などの病気の一症状、あるいは精神的疲労から起きる場合もあります。また「五十肩」と思っていたが、なかなか良くならずMRI検査をしたところ、肩の腱(けん)が傷んでいる腱板断裂だった―という患者さんもおられます。頑固な肩凝りや「五十肩」でお悩みの方は専門医の受診をお勧めします。