肥後医育塾公開セミナー

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平成18年度 第3回公開セミナー「がん予防のために?女性のためのがん検診、がん予防」

【講師】
愛知県がんセンター研究所所長
田島 和雄

『「乳がん・子宮がん死亡の激減を目指して」』
生活習慣の見直し必要


   日本ではがん患者が非常に増え、年間三十万人以上の人が死亡、六十万人を超える人が罹患(りかん)しています。国は昨年六月、「がん対策基本法」を成立させ、法律でがん対策を考えようということになりました。今年四月から具体的に運用されます。その基本理念は、?がん克服のための研究を推進し、予防、診断、治療の技術向上・普及を図る?住んでいる地域に関係なく、等しく適切な医療を受けられる体制を整える?患者の意向を十分に尊重し、治療方法などが選択できる体制づくり―の三つです。

 がんは少しでもかかりにくくすることが大切です。一番重要で一番難しいのはストレス管理です。愛知県がんセンターに来られた進行がんの患者のかなりの方々は、過去数カ月、非常にストレスが多かったようです。避けられないストレスもありますが、自分である程度、管理できるものもあります。「一日一回感動、十回笑う、百回深呼吸、千文字書く、一万歩歩く」という「一十百千万の健康法」を唱える方がおられます。そういった工夫もストレスを軽減する一つの方法でしょう。

 運動不足の解消も欠かせません。運動不足はあらゆる生活習慣病に関係しています。多くの人がエレベーターやエスカレーターを使い、階段の上り下りをしなくなりました。どこへ行くにも車を使うという人も増えています。三十分から一時間程度の軽い運動を週に二、三回続けることは、がん予防に非常に効果的です。

 戦後、進んだ食生活の欧米化も日本人のがんを増やしました。栄養価の高い高カロリー、高タンパクの欧米型の食事も、行き過ぎるとがんの原因になります。いま一度、魚や穀物をふんだんに使った日本食の良いところを見つめ直し食生活を改善することで、かなりのがんは予防できます。

 子宮頸がんで若年層の患者が増えていますが、一般的に四十代以上の発がんリスクはどんどん高くなります。日本人の平均寿命は一九四七年に五十歳程度だったものが、いまや女性は八十六歳、男性は七十九歳。長寿により、がんの危険度の高い年齢層が確実に増えています。がん全体でも男女とも年齢を重ねるごとに発症が増え、六十歳以上のがん罹患率は六割を占めています。がんによる死亡率は、この七十年間で三・六倍増えています。二〇〇五年のがんによる死者は三十二万五千人、二〇一五年には四十五万人に達すると、推測されています。

 主ながんの死亡数を見ると、女性の場合、大腸、胃、肺がんが上位三位で、乳がんは四位、子宮がんは五位です。乳がんと子宮がんの死亡率が低いのは、よく治るからです。しかし、問題は罹患です。罹患率で見ると、女性では乳がんがトップ。年々、増加しています。一九七五年から二〇〇〇年までの二十五年間を見ると、四十歳から六十四歳の女性、いわゆる社会や家庭で中心的役割を担っている世代が六割以上を占めています。

 子宮がんでは、子宮頸がんは持続的に死亡率が減少していました。しかし、九五年から二〇〇五年までの十年間で二十代から三十代の女性で増加傾向が見られ、それはいまも続いています。また子宮体がんは五十代以降で著しい増加が見られます。かつては日本の子宮がんの中で子宮体がんが占める割合は一割程度だったのですが、現在は四割に増加。実際、欧米では子宮がんの八割を子宮体がんが占めるほどになっています。

 がん罹患対策に必要なのは、日常生活を改善し、発がん年齢を遅らせることです。がんは遺伝子の変異によって起こる病気です。そして十年、二十年、あるいはそれ以上の歳月を経て顕在化してきます。

 愛知県がんセンターでは来院されたほとんどの患者の生活習慣をチェックしています。その数は延べ十四万人に上る世界でも類を見ないデータベースです。喫煙習慣や食事内容、飲酒量、最近では血液や遺伝子なども調べる大規模な研究です。そのデータによって、どのような生活を送っていると、どんながんになるかが分かってきました。

 当センターでは、?禁煙と節酒で鬼に健康金棒?節塩料理は健康21愛知?緑・黄・赤の野菜や果物は健康信号?ニコニコ運動三十分を週二回?日本料理のすばらしさを再評価―という五つの標語にまとめ、がん予防の情報として発信しています。

 アメリカやヨーロッパではがん登録が既に義務付けられており、非常に精度の高いシステムが確立しています。これにより、罹患状況や治療、予防などの効果のがんの実態が分かり、がん対策にとって大変有意義な情報が得られています。日本でのシステム構築が待ち望まれます。

 人間は本質的にがんになる遺伝子を持ち、すべての人ががんになるといっても過言ではありません。さらに、長生きするほど発がんの可能性が高まります。がんと共存して、がんと闘うためには、食生活に気を配り、ストレスをためず、適度な運動を続けるなど、がんにならない、がんになるのを防ぐための一次予防が大切です。これらにより、がん罹患数を二割は減らすことができると、私は考えています。また、がん検診による早期発見と早期治療で、がんによる死から逃れることができます。これが二次予防です。この二つの予防を心掛けることで、少なくとも女性のがんのほとんどが死なずに済むと私は信じています。