肥後医育塾公開セミナー

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平成18年度 第3回公開セミナー「がん予防のために?女性のためのがん検診、がん予防」

【講師】
熊本大学医学部付属病院講師
田代 浩徳

『「生活環境と遺伝的素因からみた女性のがん」』
遺伝子の変異で発がん


   がんは、上皮(粘膜)の細胞一個ががん化し粘膜の中で増殖、やがて粘膜の底にある膜を破り、周囲に広がります。そして血管やリンパ管にがん細胞が入っていくことで転移し命を脅かす進行したがんになっていきます。細胞ががん化し進行がんになっていくまでには、いくつもの遺伝子に変化が起きると考えられています。これは、ヒトの細胞にはがんにならないように働く遺伝子が多く存在するからです。例えば、むやみに増殖しないように調節している遺伝子(がん抑制遺伝子)や、遺伝子に異常を見つけると死に追いやる自爆機能(アポトーシス関連遺伝子)、異常が起きた遺伝子を元に戻そうとする修復機能(修復遺伝子)などがそうです。

 しかし、このような仕組みに生まれつき異常を持つ遺伝性のがんがあります。家族性乳がん・卵巣がん症候群といって、がん抑制遺伝子のBRCA1/2が変異し遺伝することで血の繋がった家族内にこれらのがんが多発。また、遺伝性非ポリポーシス結腸がん(HNPCC)といって、修復遺伝子が変異し遺伝することによって、結腸がんとともに子宮体がんが多く発生する家系も存在します。

 このように特定された遺伝子の変異による遺伝性がんの頻度はあまり高くはありません。しかし、一般のがんの発生においても、遺伝的素因が存在し、環境因子が複雑に絡み合って影響しているものと考えられます。環境因子には、外的なものとしてウイルスや喫煙、ホルモン剤の服用、内的なものとして肥満やストレス、免疫、ホルモンの異常などがあげられます。

 子宮のがんには、「子宮頸(けい)がん」と「子宮体(たい)がん」といった二つのがんがありますが、その原因は全く異なります。子宮頸がんは子宮の入り口にできるがんで、ヒト乳頭腫ウイルス(HPV)の感染が引き金になります。このウイルスは性交渉によって、子宮頸部の傷ついた粘膜に感染します。十代から二十代前半の若年者の約半数がHPVに感染しているといわれ、一生涯のうち八割の女性がHPVに一度は感染するといわれています。現在、百種類以上のHPVが知られています。その中で16型や18型の感染が子宮頸がんの原因となりますが、感染者のすべてが、がんになるわけではありません。多くは一、二年以内にウイルスは自然に排除されます。しかし持続的に感染し、ヒトの遺伝子内にウイルス遺伝子が入り込むことにより細胞を増殖させ、子宮頸がんへと向かっていきます。米国では、このウイルスに対する予防ワクチンが二〇〇六年六月に食品医薬品局により認可されています。

 一方、子宮体がんは赤ちゃんが育つ子宮内膜にできるがんで、女性ホルモンの異常が関係します。女性ホルモンは、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの二種類があり、子宮内膜の増殖を、前者は促進し、後者は抑制します。黄体ホルモンが分泌されず、卵胞ホルモンが絶えず刺激する中で、子宮内膜の細胞は、がん抑制遺伝子や修復遺伝子などが変化し、がん化へと向かいます。したがって、長期間に及ぶ排卵障害や卵胞ホルモン単独による更年期障害の治療など、ホルモン環境の変化により、子宮体がんは起きやすくなります。また、脂肪組織は副腎から出てくるホルモンを卵胞ホルモンに変換させる作用があるため、肥満も危険因子の一つとなります。

 子宮の頸がんや体がんを予防するためには、まず、これらの原因を理解することです。頸がんは、性交渉が関与していること、体がんは女性ホルモンの異常によって起きるがんであることを知っておいてください。血縁者のがんの罹患状況を知り、自分のがんの素因を確認することも大切です。