肥後医育塾公開セミナー

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平成29年度 第3回公開セミナー「歯科口腔外科医療の最前線」

【講師】
熊本大学医学部附属病院
歯科口腔外科助教
福間 大喜(ふくま だいき)

『講演3 あごの骨って再生できるの?』
腰の骨をあごの骨へ移植 生活の質向上を目指して


   私たちの口は、食べ物をかみつぶす、飲み込む、言葉を発するなどの機能を果たしています。しかし、手術で口の中を切除すると、その部位や範囲によって、口の機能が失われることがあります。また、あごの骨を切除すると、顔の形が変わり、見た目が損なわれる可能性もあります。
 がんなどの手術で上あごの骨を切除した場合は術後、口の中と鼻がつながってしまうことがあります。そのため、口の中が乾きやすくなり、鼻からの分泌物が口へ漏れ、臭いもきつくなります。この状態で食事をすると、上手く飲み込むことができません。そして言葉も判別しにくくなります。
 そこで術後は、まずマウスピースのようなものを作製して、上あごの穴をふさぎます。術後半年間は傷口の形が落ち着かないため、半年を経過してから「顎義歯(がくぎし)」といわれる、失ったあごも含めて補う特殊な入れ歯を装着します。
 下あごの場合は、かむ力に耐えられるよう、骨の移植が必要になります。その骨は、骨盤の縁の「腸骨(ちょうこつ)」や、足のすねの裏にある細い「腓骨(ひこつ)」、それから「肩甲骨(けんこうこつ)」の外側の一部などを取り、金属製(チタン)プレートを使って下あごの残った骨につなぎ合わせます。
 最近では、まず術前にCT撮影をして、そのデータを元に3Dプリンター(粉末積層造形装置)で実物大の石こう模型を作ります。その模型を使って、骨をつなぎ合わせる金属製プレートを実際のあごの形に曲げておきます。
 それにより、手術の確実性や安全性が高まり、手術時間が大幅に短縮できるようになりました。また、顔の見た目も元通りに近い状態になります。こうした3D模型を用いた手術支援には健康保険が適用されています。
 あごの骨の再建の後には、かみ合わせの再建を行います。最近は、あごの骨に金属製の歯根を埋め込み、それを土台に人工の歯を作るインプラント治療が行われるようになりました。インプラント治療には通常、健康保険は適用されませんが、2012年から指定の医療機関で治療する場合、病気であごの骨を3分の1以上失った患者さんに対し、かみ合わせを再建するためのインプラントには保険が適用されるようになりました。
 その他、骨を再生する手術も行われるようになっています。これは、上あごの骨が吸収され(壊れ)、高さがなくなった箇所に、腰の骨から「海綿骨」を取ってきて、上あごの上の「上顎洞」にその海綿骨を移植することで、3カ月から半年ほどで骨を再生することができます。
 医療の進歩により、近年は治療の幅が広がっています。今後も患者さんの生活の質(QOL)を高める治療を提供していきたいと考えています。