肥後医育塾公開セミナー

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平成28年度 第3回公開セミナー「健やかな子どもを育てる」

【講師】
熊本地域医療センター・熊本県予防接種センター
小児科部長
柳井 雅明(やない まさあき)

『講演A ワクチンによる小児の重症感染症予防』
ワクチン接種は命のプレゼント


   休日夜間外来をしていて常々、「ワクチンさえ接種していれば亡くなることも、重篤な後遺症が残ることもなかったのに」という思いを抱きます。これについて、本日はQ&A型式でお話しします。
 ─ワクチンを接種できないために世界中で多くの子どもが亡くなっているのは、本当ですか。
 国際機関の推計(2008年)では、ワクチンで防ぐことができる病気で年間150万人の5歳未満の子どもが亡くなっています。感染症の死亡例で多いのは肺炎球菌32%、ロタウイルス30%、ヒブ13%です。その他、世界では百日ぜきやはしか(麻疹)、破傷風などでも命を落としています。

集団免疫率を高め 感染症流行を予防
 ─皆が皆、ワクチンを接種する必要はないのでは。
 ある集団の中で、免疫を持っている人が一定以上の割合であれば、その感染症の流行を防ぐことができます。その割合を知るための指標が集団免疫率です。例えばインフルエンザ患者1人の感染力は2〜3人程度です。その点、はしかは16〜21人、おたふく風邪は11〜14人、百日ぜきは16〜21人です。日本では定期予防接種により集団免疫率が高く維持されているので、近年は、はしかや百日ぜきなどの大きな流行はありません。
 ─日本ではワクチン導入後にヒブ、肺炎球菌による髄膜炎は減りましたか。
 導入後、ヒブ感染症による髄膜炎は98%減少、肺炎球菌は61%減少しました。ヒブの血清型は1種類しかないので、ワクチンの効果は極めて高いものとなります。一方、肺炎球菌ワクチンは90種類以上の血清型から感染力の高い13種類の菌を選択しているため、ワクチンがカバーしている13種類の血清型に対する効果は高いのですが、それ以外の血清型は防御できない弱点があります。
 ─ロタウイルスワクチンまで接種が必要ですか。
 ロタウイルス感染症は、胃腸炎による下痢や嘔吐(おうと)を起こすだけでなく、死亡や重篤な後遺症の可能性がある感染症です。ワクチンの接種を強くお勧めします。

妊婦は風疹に注意し 男女とも予防接種を
 ─卵アレルギーがあるとインフルエンザワクチンを接種できませんか。
 いまのインフルエンザワクチンには、卵の成分がごく微量(1グラムの10億分の1程度)しか含まれていません。アレルギー反応が起こる可能性は低く、ワクチンを諦める必要はありません。
 ─夫婦共に風疹ワクチンを接種する必要がありますか。
 妊婦が妊娠初期に風疹にかかると、赤ちゃんの耳や目、心臓に障害が起こることがあります。妊娠を希望する場合、配偶者にも風疹ワクチンの接種が勧められます。1995年ごろまで女子中学生のみ集団接種が行われていました。そのため、現在30〜40代の男性は抗体を持たない割合が高いです。
 ─ワクチンの同時接種に問題はありませんか。
 問題ありません。注射を打つ場所を離すなどの同時接種のルールに基づいて、世界中で標準的に行われています。
 救急医療の現場にいて、「予防に優る救急医療はなし」と常々感じています。ワクチン接種は、子どもたちへの命のプレゼントだと思います。きちんと接種させることで、子どもたちを重症感染症から守ってください。