肥後医育塾公開セミナー

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平成28年度 第1回公開セミナー「認知症」

【講師】
熊本大学保健センター教授
藤瀬 昇

『早期認知症と高齢者のうつ病』
リスクの要因となる「うつ病」


   2009〜12年に実施された全国調査によると、15年の認知症患者数は当初の予想をはるかに上回る462万人と推計されています。一方、認知症の前段階とされる軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)の推計数も400万人に上っています。
 認知症の症状には、記憶障害、家事などに支障が出てくる実行機能障害、注意障害、視覚認知障害などがあり、これらをまとめて認知機能障害といいます。また、行動・心理症状には幻覚・妄想、抑うつ・不快、興奮、無関心(アパシー)などが含まれます。前者を中核症状、後者を周辺症状と呼びます。
 認知症の原因となる代表的疾患には、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症、血管性認知症などがあり、そのほか治療が可能な正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫などもあります。
 以前から専門外来では、もの忘れを主訴として受診する人たちの中に、うつ病の人がときどき見られることが指摘されていました。うつ病を十分満たさない状態を抑うつといいますが、国内の地域在住の認知症患者を対象とした調査では、アルツハイマー病の23.8%、血管性認知症の21.4%に抑うつが認められると報告されています。熊本大学附属病院神経精神科のもの忘れ専門外来を受診した軽度の認知症患者では、アルツハイマー病の33%、血管性認知症の39%に抑うつが認められました。
 うつ病には客観的な指標がなく、その原因はよく分かっていません。高齢者のうつ病では、喪失体験(健康、社会的な役割、経済面、家族など)が多く、身体の不調を訴える一方で悲哀などを訴えることは少ない、長引きやすい、認知機能障害を伴いやすい、自殺率が高いなどの特徴があります。また、女性である、慢性的な病気を抱えている、身体機能の低下といった要因との関連が指摘されています。
 近年、うつ病が認知症のリスク要因となり得ることが知られてきました。認知症とうつ病の鑑別は難しい場合もしばしばありますが、認知症であればリハビリを中心に行い、うつ病であれば投薬治療などを積極的に行うことになります。特にうつ病の場合は、高齢だから仕方ないと、最初から諦めたりしないことが大事です。うつ病の再発を繰り返すと、認知症を発症するリスクが高くなることが報告されています。再発予防としては、自己判断で薬を止めたりしないことが大切です。
 対応としては、本人はもちろん、お世話をする家族に対しても重層的な支援を行うことが必要です。