肥後医育塾公開セミナー

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平成27年度 第3回公開セミナー「職場のメンタルヘルス」

【講師】
熊本大学医学部附属病院神経精神科 講師
藤瀬 昇

『≪講演@≫メンタルヘルスの不調について』
患者は推計400万人以上 増加するうつ病への理解を


   メンタルヘルス不調は特別なものではなく、決して珍しいものでもありません。厚生労働省の調査では、成人の5人のうち1人が生涯を通じて何らかの精神的不調を経験しているとの報告があります。最近では、がん、心筋梗塞、脳卒中、糖尿病に精神疾患を加え、5大疾病と呼ばれています。
 メンタルヘルス不調には、気分の落ち込みやイライラ・不安が特徴的な適応障害、お酒や薬物・買い物・人間関係などに依存する依存症、神経が過敏になり過剰な心配におびえる統合失調症などさまざまなものがあります。今回は近年増加している、うつ病についてお話しします。
 国内の気分障がい(うつ病、躁うつ病)患者は2008年、ついに100万人を突破しました。ただし、これは病院を受診した人の数で、他の調査を合わせたうつ病患者数は推計400万人以上といわれています。
 精神疾患は数値などで客観的に判断できる指標がまだ確立されておらず、現状では気分の落ち込みと、興味や喜びが喪失したなどの症状が一定期間(2週間以上)続くと、うつ病と診断されます。うつ病は最初、眠れない、食べられない、集中力が落ちるなどの症状が現れ、だんだん意欲が落ちて、自分の存在価値に疑問を持つようになります。症状が続くと最終的には死にたいとまで考えるようになります。典型的には、朝に症状が出やすい傾向があります。
 うつ病のメカニズムは残念ながら、まだ分かっていません。ただ、うつに影響する因子としては、無力体験がある、仕事や人間関係などを相談できる人がいない、生活上のショックな出来事があった―などがあります。また、うつになりやすい人の性格傾向として、几帳面、責任感が強い、周囲に気遣うなどが挙げられます。
 うつ病の一番の治療は休養を取ることです。患者の94.1%に睡眠障害が認められ、脳の休息のために睡眠がとても重要になります。また、うつ症状が軽い場合は薬を用いない治療も選択肢としてありますが、中等度以上からは服薬が必須です。再発を予防するためには、良くなったからといってすぐにお薬をやめないことが大切です。半年から1年は服薬継続が必要です。
 うつ病は時代とともに変わっていく傾向があるようです。症状が明確な「従来型」に対し、その人の生き方と区別がつきにくい「現代型」と呼ばれる病態が増えています。従来型は自分を責める人が多いため、「頑張ってください」という激励は逆効果ですが、現代型の場合はときには背中を押してあげることも必要です。
 ご家族は、なるべくいつもと変わらない対応を心掛け、本人を無理に外に連れ出したりしないようにしてあげてください。