肥後医育塾公開セミナー

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平成26年度 第2回公開セミナー「いつまでも食事を楽しむために」

【講師】
熊本大学名誉教授 伊東歯科口腔病院 顎顔面再建・再生センター長
篠原 正徳

『講演(2)歯と口腔を大切に』
歯周病は生活習慣病の一つ きちんとした歯磨きで予防


   食事を楽しむためには、歯と口腔のケアは大変重要です。20本以上自分の歯がある人は84%以上の人が何でも食べられますが、20本以下になるとそれが50%以下になります。健全な咀嚼(そしゃく)能力=かむ力を100%とすると、総義歯では20%しかなく、大臼歯を1歯なくすだけでもその能力は40%も落ちてしまいます。しかも、歯の寿命は平均で54年程度ですので、10歳で永久歯が生えたとすると65歳には歯がなくなることになります。それゆえ十分にケアすることが大切です。
 さらに、咀嚼ができないと、学習記憶能力が落ち認知症になりやすく、全身運動の機能が落ちることが分かってきました。これらの予防のためにも、できるだけ歯を残すことが大事です。
 咀嚼は唾液分泌量にも影響し、ちゃんとかんで食べられない人は、唾液の分泌量が減少します。唾液は咀嚼や嚥下を補助するほか、口腔を清潔にする作用、抗菌作用、酸を中和して歯の表面を保護する働きもしています。そのため、唾液は一日に約1500ミリリットル分泌されます。唾液が出なくなると、虫歯、歯周病、口腔乾燥症(ドライマウス)、口内炎などが起こります。
 口の中には外からいろいろな細菌などが入ってきます。口腔は栄養が豊富で湿潤、複雑な構造をしているため、細菌にとって繁殖に好都合な環境になっています。口腔には500〜700種類の細菌が常在しており、それが外からの細菌の侵入を防止する働きもしています。唾液1ミリリットルには、実に約1億個の細菌がいるといわれています。
 朝起きた時、ねっとりとしたものが歯に付いていますが、それが歯垢(プラーク)です。歯垢1グラムは10億〜100億個の細菌の死骸といわれています。さらに口の中にはカビも生えます。
 口腔の二大疾患の一つは「虫歯」です。その原因は砂糖ですが、虫歯の怖いところは、細菌が歯の根に病巣を作り、治療しないと全身に細菌を送り続けることです。もう一つは「歯周病=歯槽膿漏(のうろう)」です。歯に歯垢や歯石が付き、歯と歯肉(歯茎)の間にポケットと呼ばれる隙間ができて炎症が起き、進行すると歯を支える骨を溶かします。歯石は歯科医院でしか取ることができません。
 歯周病は自覚症状がなく進行し、食生活、飲酒、喫煙などの生活習慣と深い関わりがあるため、厚生労働省が生活習慣病の一つに加え、注意を呼びかけています。歯周病は全身疾患にも関与しています。歯周病を治療すると、心筋梗塞のリスクが2分の1から3分の1に下がるとされ、糖尿病の血糖値もコントロールしやすくなります。口腔ケアを2年間続けると、誤嚥性肺炎の発症率が半分に下がるといわれています。その他、腎疾患や早期低体重児出産と関わっていることも分かってきています。
 口腔の病気予防の基本は、うがいと歯磨きです。きちんと歯磨きをすれば、歯肉炎が抑えられ、歯周病になりにくくなります。「たかが歯磨き、されど歯磨き」です。