肥後医育塾公開セミナー

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平成25年度 第1回公開セミナー「呼吸器疾患」

【講師】
熊本大学大学院生命科学研究部放射線治療医学分野教授
大屋 夏生

『《講演5》肺がんの放射線治療』
患者に優しい治療


   肺がん治療に使う放射線装置は多方向から、がんに放射線を当てることができます。照射範囲を病巣に絞り込み、がんに正確に放射線が当たったかどうかを確認しながら照射することができます。放射線療法は、手術で取り切れない局所進行肺がんで、遠隔転移のない場合に最も有効です。局所進行肺がんに対する放射線治療では、放射線の通り道にある正常臓器のダメージを極力抑えるために、1回あたり2グレイのマイルドな放射線を合計30回、分割照射します。1回の放射線治療は10分間、台に寝ているだけです。月曜から金曜まで毎週5回、6〜7週間続けることで比較的大きながんも小さくでき、二度と増大しないよう、がんの成長パワーを奪ってしまうことができます。
 一方、高精度な放射線治療技術により、最近は早期の肺がんに対しても、根治的な放射線治療が、積極的に行われるようになりました。こちらは、さらに破壊的な量(12グレイを4日間で4回)の細い放射線の束を多方向からピンポイント的に、がん病巣に集中させる治療です。患者さんに対する身体的負担は小さく、外来で治療することも可能です。早期がんの標準治療は手術ですが、体力、年齢、肺機能低下などの理由で手術が困難な患者さんや、手術を希望しない患者さんは、ピンポイント治療の対象となります。ただし、心臓に近すぎない、がん病巣が大きすぎない、などの条件を満たす必要があります。
 早期肺がんに対するピンポイント治療は、一般的に行われるようになって、まだ10年ほどしか経過していないため、有効性が確立されるにはまだ少し時間が必要ですが、患者さんにとって優しく、がんに対しては強力な治療法として、今後さらに普及していくと考えられます。