肥後医育塾公開セミナー

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平成23年度 第1回公開セミナー「在宅医療を考える 〜自宅で安心して過ごすために〜」

【講師】
立川在宅ケアクリニック院長
井尾 和雄

『《基調講演2》後悔しない最期の時の迎え方 〜在宅看取り1600人超の経験から〜』
死に場所 選べぬ時代も 大切な「看取りの覚悟」


   厚生労働省が行った終末期医療に関する意識調査によると、多くの方が、末期がんの場合の延命治療には否定的で、痛みを和らげるなどの緩和ケアを望んでいます。そして、療養場所として自宅を希望する人が約6割。しかし同時に約6割が、それを「実現不可能」と思っています。理由は、@家族に負担がかかるA病状急変時に不安B経済的な負担が大きいC病状が悪化したときに入院できるか不安D往診してくれる医師がいない―などです。日本では現在、自宅で亡くなる人は12%程度、80%以上が病院で亡くなっています。90歳の高齢者でも、救急車で運び込まれれば、救急医療スタッフはあらゆる手段を尽くして助ける努力をします。さまざまな先端の医療機器を使い、患者は点滴や人工呼吸器につながって命が保たれます。
 国は2006年の医療法改正に伴い、24時間365日体制で在宅診療を行う「在宅療養支援診療所」を、新たに設けました。07年施行の「がん対策基本法」では、早期からの緩和ケアや在宅での支援が強調されています。国は在宅や施設での看取(みと)りを増やす方向を目指していると思われます。
 私は東京都立川市で、末期がんの患者さんに在宅で緩和ケアを行い、看取る「在宅ホスピス」を02年から開業しています。当院がある立川市周辺の多摩地区の人口は約400万人ですが、ここにホスピスが7カ所あり、看取り患者数は年間で計679人(08年)でした。当院では施設2カ所分の162人を看取りました。
 首都圏の多くの病院では、治療ができなくなった末期がんなどの患者さんは退院させられます。当院は、そうした患者さんとその家族に対し、自宅での緩和ケアと看取りについて、具体的な相談をして診療を開始します。24時間365日体制で支援すること、定期的に医師と看護師が訪問すること、痛みを取ること、呼吸困難に酸素を使用することも病院と同じくできることをお伝えします。薬も自宅まで配達してくれます。
 大切なのは、患者さん本人の覚悟はもちろん、それを看取る家族の覚悟です。医師や看護師はここでは脇役でしかありません。団塊の世代が多数亡くなっていく時代には、死に場所が選べないかもしれません。在宅での看取りがますます必要になると思います。地域の力を高め、熊本にもその体制を根付かせてほしいと願っています。