肥後医育塾公開セミナー

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平成21年度 第2回公開セミナー「慢性腎臓病(CKD)と生活の質の向上」

【講師】
新潟大学大学院医歯学総合研究科腎・膠原病内科学教授
成田 一衛

『〈基調講演〉腎臓病は治るのか?』
総合的な対処で効果増幅


   CKDは現在、日本人成人のおよそ8人に1人いるといわれ、しかも年々、増加しています。腎機能が悪くなると、腎臓だけでなく、心血管の疾患の危険性も高まります。
 初期段階では自覚症状がないため、つい見過ごしてしまいがちですが、腎機能の働きの度合いは、タンパク尿検査と糸球体ろ過量で知ることができます。
 タンパク尿検査では、尿中のタンパク質量を調べます。健康な人でも、一日に微量のタンパク質が尿の中に流出していますが、腎臓や尿路に異常が起きると、尿に多量に漏れ出るようになります。正常な糸球体の血管壁だと、タンパク質や血球のような大きな物質はほとんど通り抜けられません。けれども、糸球体に炎症などの異常が現れると、尿中にタンパク質や血液が多量に排出されるようになります。
 ところで、3大栄養素というのがあります。私たちの活動の基になっているもので、炭水化物、脂肪、そして、タンパク質があります。
 これらが体内でエネルギーをつくった後、どうなるか―。炭水化物と脂肪は、汗や呼吸、腎臓以外でも排せつできます。
 しかし、タンパク質だけは、最終的に尿素やクレアチニンなどの老廃物に変わり、これらを捨てる場は尿しかありません。タンパク質が多すぎると、体内に尿素窒素や尿酸、そのほかの尿毒素がたまって尿毒症を引き起こし、全身の臓器の活動を低下させて障害を招いてしまいます。
 とはいえ、タンパク質を摂取しないわけにはいきません。控えすぎると、体の構成部分に支障を来し、大きな病気の基になります。実際の食事量として、どれくらいタンパク質を取ればよいか、医師、管理栄養士などに相談してみるとよいでしょう。
 CKDを治すには、まず自己管理が大切です。予防に当たって、CKDのリスク要因の一つである生活習慣病は、食事の量や内容などを自身で見直すことによって修正が可能ですから、要はやる気の問題です。
 治療に際しては専門医だけでなく、看護師や管理栄養士らスタッフと共同で行う集学的治療が欠かせません。
 腎臓病の治療は、一つの方法だけでなく総合的に対処してこそ、効果も増幅されるのです。
 そして、そのスタッフの中にぜひ、ご自身も加えてください。「自分でも治療するんだ」という意識を持つことが、予防、治療に取り組む上で最も重要なことだからです。