肥後医育塾公開セミナー

肥後医育塾公開セミナー
肥後医育塾公開セミナー

平成21年度 第1回公開セミナー「がんと緩和ケア」

【講師】
熊本市医師会熊本地域医療センター総合診療部長・麻酔科部長・救急部長
田上 正

『緩和ケア病棟は今…』
家族のきずな確認の場 より良い みとり目指す


   緩和ケア病棟は、患者さんの限りある時間を大切に過ごす環境を提供する場です。患者さんはもちろん、家族にとって、家族のきずなを確かめる場でもあります。そして時が過ぎ、みとり、みとられる場になります。
 全国のホスピス緩和ケア病床数の推移を見ると、平成2年に5施設、117床でスタートしましたが、今年5月時点では、193施設、3766床と大幅に増えています。県内でも現在、7施設、121床あります。
 私が少し気になるのは、症状のコントロールに主眼が置かれるあまり、患者さんの身体、精神面などの苦痛に総合的に対処する「全人的ケア」を忘れてはいないか、という点です。その際、私たちはどのように患者さんに寄り添うことができるか、自問自答せざるを得ません。
 入院基準として、がん告知を受けていなければならないかというと、必ずしもそうではありません。ただ、私たちの病院では70−80%の患者さんが自分の病気のことを知っています。患者さんがご存じの方が、ご家族の皆さんと共にコミュニケーションを取りやすく、隠し事のない医療を進めることができるのです。
 緩和ケア病棟について、「ここは死を待つ所なのか?」とよく尋ねられます。私たちの病院には平均して、年間100−120人ほどの患者さんが入院されてきますが、そのうちの10―14%は、在宅医療や近くの病院などに転院するため退院されます。つまり、危険な状態を脱して、それなりに元気になられるのです。ギリギリの状態まで治療を頑張ってこられた患者さんが、より良い環境の下、うまく症状をコントロールされることで、体力や心の安定が戻り、症状が回復すると考えられます。このように、緩和ケア病棟は必ずしも終末期のケアに限らないという事実を頭に入れておいてください。
 私たちの緩和ケア病棟では、手術や抗がん剤投与など積極的な治療は行いません。ここに入って来られる方は、身体に負担が掛かるような治療をすると、むしろ余命を短くする場合が多いからです。もっとも、治療をやめるということでなく、患者さんの苦痛を取る治療は続けていきます。
 私たちの病院では年に2回ほど家族会を開きます。チームスタッフやボランティアの皆さんも加わり、思い出話に花が咲きます。家族の中には涙ぐむ方もおられますが、最後は笑顔で終わります。それは、患者さんの最期を確かに、みとることができたという充実感によって得られたことだと思われます。
 私たちが目標とする、みとりは、患者さんに苦痛がないこと、家族のみとりがあることです。また患者さんとご家族の時間を尊重するために、医療者がその場にいない配慮もしています。