肥後医育塾公開セミナー

肥後医育塾公開セミナー
肥後医育塾公開セミナー

平成19年度 第2回公開セミナー「食生活とアレルギー」

【講師】
国立病院機構熊本医療センター小児科医師
緒方 美佳

『『乳児アトピー性皮膚炎と食物アレルギー』』
必要最低限の食物除去 皮膚炎の治療も重要に


   アトピー性皮膚炎は、慢性に経過するかゆみがある湿疹(しっしん)が特徴で、乳児だと2カ月以上、それ以降では6カ月以上続くものを指します。治療の基本は、スキンケアで清潔を保ち保湿を行った上で、必要に応じステロイド軟こうを用いた薬物療法を行います。また汗や掻破(そうは)、細菌などの外的因子や食物など、症状を悪化させる原因を取り除くことも大切です。乳児期発症のアトピー性皮膚炎は幼児期以降と異なり、食物アレルギーが関与しているケースが比較的多く見られます。そのことが医療の現場で正しく認識されていないこと、逆に保護者の思い込みが混乱を招いています。

 母親が摂取した食物アレルゲン由来のタンパク質やペプチド(タンパク質の破片)を赤ちゃんが母乳を介して吸収し、それによって反応性が得られ、症状を引き起こすと考えられています。まだ離乳食が始まっていない乳児が母乳を介して卵や小麦に反応し症状が出るのはそのためです。ステロイド軟こう療法とスキンケアで症状の改善が見られなかったアトピー性皮膚炎の乳児が、母乳栄養の母親の食事から原因食物を取り除いたところ、湿疹が4日ほどで劇的に改善し、再燃しなくなった症例も経験しました。

 乳児の食物アレルギーは、アトピー性皮膚炎を症状として発症することが多く、食べてすぐにじんましんなどの症状が出る即時型の食物アレルギーに比べ、食物との関連性が分かりづらく、正確な診断が難しいです。

 最初に指導すべきことは正しいスキンケアの方法です。せっけんを用いて清潔を保ち、必要なら保湿を行います。ステロイド軟こうの正しい使用法も指導します。

 それでも良くならない時や、ずっとステロイド軟こうが手放せないような場合、食物アレルギーの関与を考えます。正しい診断をするため、母親からいろいろと話を聞きます。離乳食に加え、母乳栄養の場合には、母親が食べた物と皮膚症状の関係を日記でチェックしていきます。血液検査や皮膚テストの結果を参考に、検査で陽性となった食物を試験的に除去します。血液検査での抗体陽性が必ずしも食物アレルギーを示すわけではありません。試験除去によって症状が改善し、さらに負荷試験で悪化する場合、食物アレルギーと判断します。

 「アトピー性皮膚炎だから卵と牛乳を除去した」という話をよく聞きますが、自己判断による不必要な食物除去は、成長に必要な栄養素が不足し、発育障害などを引き起こす場合もあり危険です。乳児期に発症した食物アレルギーの多くは、正しい診断による原因食物の除去により、成長とともに食べられるようになります。定期的な血液検査などで抗体価の推移を見ながら、除去食の解除の可能性を常に考えておくことが重要です。