肥後医育塾公開セミナー

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平成19年度 第2回公開セミナー「食生活とアレルギー」

【講師】
国立病院機構相模原病院臨床研究センター アレルギー性疾患研究部部長
海老澤 元宏

『『増加する食物アレルギー』』
「負荷試験」で原因特定 個々に合わせた対応を


   食物アレルギーは、食べ物に含まれる特定の成分に対する免疫反応によって起こる過敏症で、アレルギーの原因物質に反応するIgEという抗体を介して発症するものが9割以上です。口内の腫(は)れやじんましんを起こすほか、呼吸困難や血圧低下などの全身的な症状(アナフィラキシー)が知られ、さらにひどい場合、アナフィラキシーショックといって、命にかかわる危険な状態に陥ります。万一の発作を抑えるため、エピペンという補助治療薬が認可されています。

 食物アレルギーは、先進国を中心に大変増えています。特に小児アレルギーが増加しており、理由として、子どもの両親がアレルギー性疾患を持っている率が高いことが考えられます。アレルギー性疾患というのは、環境や遺伝など複数の因子で起きる病気です。実際、私が食物アレルギーと診断した子どもの両親の疾患率を調べたところ6割に上りました。

 日本で食物アレルギーの原因となる食物は卵、牛乳、小麦が多く、そのほか、カニやエビなどの甲殻類、魚類、ソバ、ピーナツ、大豆などがあります。最近はキウイやパパイア、マンゴーなど南方系のフルーツによる果物アレルギーも増加しています。

 食事の直後にアレルギー症状が出ると、原因物質を特定しやすいのですが、時間がたって症状が現れる場合は分かりづらく、診断も難しいです。一般には、血清中のIgE抗体量を調べる血液検査、皮膚でアレルギー反応が起きるかを試すテストなどを行いますが、血液検査や皮膚テストだけでは確実な診断ができないのも事実です。症状がまったくない人でも、「陽性」と出ることがあります。これらの検査結果だけで食物アレルギーと決めつけるのは危険です。

 より確実な診断法として、食べ物を少量ずつ摂取し、症状が現れるかどうかで原因物質を特定する食物負荷試験を行います。この方法で、制限する食物を最小限にとどめます。食物アレルギーは乳児期の発症の場合、加齢とともに軽減、消失する場合が多いので、負荷試験の結果を見ながら食物の除去を解除していくことが大切です。負荷試験は時にアナフィラキシーなどの危険を伴うため、負荷試験の適応の有無を判断した上で、入院施設がある医療機関で行います。ある一定期間の食物制限により、小児期の食物アレルギーの改善が認められています。

 気を付けなければいけないのが、栄養のバランスです。私たちは必要最小限の制限を心掛けていますが、唯一栄養素が欠けやすいのが、牛乳アレルギーの人のカルシウムです。牛乳から取るカルシウムは吸収がよく、これを小魚や海草などで補うのは難しいです。代用品として、加水分解ミルクなどが用いられます。

 食物アレルギーといっても、除去すべき物質を一律に判断できません。成長や治る段階などにより、例えば、卵なら、白身は無理だけど、黄身なら食べられる、加熱が甘いと反応が出るけど、十分熱を通せば大丈夫―などの状況があります。

 負荷試験でその人に応じた対応を行い、症状を誘発する食べ物は取らないようにして、症状の経過を見ながら、必要最小限の食物除去を行っていくことが大切だと思います。