肥後医育塾公開セミナー

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平成17年度 第1回公開セミナー「動脈硬化と心臓病?その予防と治療?」

【講師】
済生会熊本病院副院長
本田 喬

『「心臓病救急時の対応および熊本県の心臓病救急の現状」』
初期治療の充実で心肺停止の防止を


   昨年、県内の主な病院に心臓病で入院された人は約一万三千五百人いましたが、このうち救急入院されたのは約五千五百人でした。救急入院された人の内訳は急性心筋梗塞が九百六十四人で一番多く、ほかは不安定狭心症、急性心不全などでした。

 済生会熊本病院の調べでは急性心筋梗塞になると、十人に一人が亡くなっています。しかし心肺停止になった人を除くと死亡率は低くなり、心肺停止を防ぐことが、助かる重要なカギと言えそうです。それには発症直後の致死性不整脈への対処や、発症から入院までの初期治療を充実させることなどが大切です。専門病院に入院するまでの時間を短縮することや、心肺蘇生術や自動体外式除細動器(AED)の普及、救急救命士の充実といった地域救急システムを整備することも必要でしょう。

 心臓病を発症した人の命を救うには(1)迅速な一一九番通報(2)心臓マッサージと人工呼吸(3)AEDによる処置(4)医療機関の適切な対応―がうまくつながることが大切です。これを“命の連鎖"と呼んでいます。

 もし人が倒れたら意識と呼吸の有無を確認し、呼吸していなければ、あごを上にそらせ気道をまっすぐにして呼吸しやすくして、人工呼吸を施します。心臓が止まっていれば心臓マッサージをしてください。胸骨を両手で体重をかけて押さえ、一分間に百回を目安に押します。

 救急車が到着するまでに数分間かかります。その間、心臓マッサージや電気ショックがなされると生存率は高くなります。除細動が一分遅れるごとに生存率は10%ずつ悪くなるという研究結果も出ています。

 熊本では昨年、約二千人の人が病院外で心肺停止になりました。その内約千三百人の人に対して心肺蘇生術が施されました。これは日本でもかなりよい数字です。心肺蘇生術を受けた人のうち、倒れるところを目撃された場合と、されなかった場合では生存率に差がありました。目撃された場合が好成績でしたが、これは目撃者がいるとすぐに処置できたからだと思われます。また病院に到着する前に心臓が復活すれば、生存率が高いというデータもあります。

 心肺停止になると、一刻も早い処置が求められます。それには一般の皆さまの協力が必要です。公共施設に備えてあるAEDは講習を受けなくても使え、使い方も簡単です。スイッチを入れて、音声ガイダンスに従ってパッドを指定された部分に張り、ショックのスイッチを入れるだけです。仮にその人が助からなくても、一般の人の責任は問わないように法整備もされています。ただ心肺蘇生を拒否する意思表示をしている人には、その意志を尊重してください。

 救急車を呼ぶ際は(1)患者の状態を的確に伝える(2)場所の目標物を伝える(3)ゆっくり、はっきりと話す(4)搬送をせき立てない(5)搬送病院に固執しない(6)救急車が到着する前に意識がなくなったら再度電話をする―などを心掛けてください。