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2010年 「まいらいふ」2月号

未破裂脳動脈瘤(りゅう)
 発症するとおよそ1/3が亡くなるくも膜下出血の一番の原因は、脳動脈瘤の破裂です。破裂を繰り返すほど死亡率が高くなります。しかし、未然にくも膜下出血を防ぐことができたら、脳動脈瘤を恐れる必要はありません。最近、MRI検査が普及し、破れる前(未破裂)の脳動脈瘤が見つかるようになってきました。今回は、未破裂脳動脈瘤に関して現在分かっている情報を、対処法とともにお伝えします。

未破裂脳動脈瘤の割合
[図1]

 わが国では、成人の2〜6%(100人に数人)に未破裂の脳動脈瘤が見つかっています。大きさは2o程度の小さなものから25o以上の大きなものまでありますが、全体の4分の3は10o未満の大きさです。一方、破裂してくも膜下出血で発症する患者さんの割合は、年間1万人あたり1〜2人と言われています。したがって、人口1万人の町の場合、200〜600人が未破裂の脳動脈瘤を持っていて、そのうちの1人か2人が一年間にくも膜下出血として発症していることになります。つまり、未破裂脳動脈瘤を持っている人がすべて破裂して発症するわけではなく、むしろほとんどの方は破裂しないまま生涯を終えていることが分かってきました。今後、画像診断の進歩や検診受診者の増加により、未破裂脳動脈瘤の発見率はもっと上がると予想されています。


未破裂脳動脈瘤が
見つかった場合の対処法

 見つかった未破裂脳動脈瘤が、将来破裂してくも膜下出血を起こすか、破裂しないままなのかを確実に予測することは、今のところできません。そこで、未破裂脳動脈瘤の破裂率や破裂しやすい動脈瘤のタイプについて、また予防的な外科治療の方法やその危険性について十分な知識を持った上で、適切な対処法を選択することが重要です。


未破裂脳動脈瘤が
破裂する割合

 2003 年、脳外科の国際誌に未破裂脳動脈瘤の破裂率に関する報告が発表されました。それによると、くも膜下出血の既往のない人の場合、瘤(こぶ)の直径が7o以下の小さな動脈瘤の年間破裂率は0.1%と非常に低いことが分かりました。一方、7〜9o の年間破裂率は0.7%、10〜25oは7%、25o以上は17%と、動脈瘤が大きくなるにつれて破裂率が高くなっています。また、くも膜下出血の既往のある人では、その破裂率が全体的に軽度上昇します。この結果が、そのまま日本人にも当てはまるのかどうかは不明です。そこで、日本人を対象とした未破裂脳動脈瘤の破裂率に関する研究が2001年から進行しています。中間報告では、未破裂脳動脈瘤の破裂率は0.5%(年)の見込みです。


破裂しやすい 未破裂脳動脈瘤のタイプ
[図2]

@大きさが直径10o以上のもの
A症候性(視覚異常が出て、ものが2重に見えたり視力が低下する)の 場合
B動脈瘤の形が不正形のものや、ブレブ(小さな膨らみ)を伴うもの (図2)
C脳の後方の血管にできる瘤や、瘤が複数できている場合
D家族にくも膜下出血を起こした人がいる場合


未破裂脳動脈瘤への対処法

 未破裂脳動脈瘤に対する現在の対処法は次の3つです。


A 慎重に経過を追う方法
小さい動脈瘤(特に5o以下)の未破裂脳動脈瘤に対しては、MRAによる経過観察をする方が多いようです。年に一度または6カ月に一度、瘤のサイズを見ていく方法です。脳動脈瘤が徐々に大きくなる場合、近い将来破裂してくも膜下出血になったり、また脳や神経の圧迫で障害を来したりすることが予想されるからです。未破裂動脈瘤の観察研究では、7%前後の人で瘤の拡大が認められたとの報告があります。

B 積極的に治療を行う方法
B1 開頭によるクリッピング術
頭蓋(とうがい)を開けて、チタンやステンレスで作られた小さな洗濯ばさみのようなクリップで動脈瘤の首の部分を閉塞(へいそく)し、瘤への血流をせきとめる方法です。この方法は20年来行われており、長期の効果も実証されています(図3)。


B2 血管内治療
カテーテルによる治療法で、動脈瘤内をプラチナで作られたコイルで詰めてしまい、破裂を予防する方法です。ここ10年来発展してきた技術で、頭を切らずに治療できますが、長期予後についての統計学的な成績はまだ得られていません(図4)。


 クリッピング術および脳血管内治療は、どちらの場合にも合併症の危険性があります。開頭クリッピング術による合併症として、脳内出血や、血管の閉塞による脳梗塞(こうそく)、手術中の脳の損傷、感染症、けいれんや美容上の問題などです。一方、血管内治療の合併症は、コイルの逸脱や手技中の血管閉塞、瘤の破裂、血腫の形成などが挙げられます。いずれの方法でも合併症の率が数%あると報告されています。
 大きな脳動脈瘤ではクリッピング術や脳血管内治療のどちらの治療法でも対処できない場合もあり、血流を維持するためのバイパス術をした上で、親血管そのものをふさぐ手術などが行われることがあります。今後は血管壁を補強するステント技術などが進歩し、さらに負担の小さな治療が行われるようになると期待されています。


最後に

 未破裂脳動脈瘤が見つかっても、くも膜下出血になる確率は意外に低いので、まずは気を落ち着かせて、血圧が上がらないように注意しましょう。次に、脳神経外科専門医あるいは脳血管内治療専門医による十分な説明を受け、納得した上で、あなたに最も適した対処法を決めることが重要です。セカンドオピニオンを利用することも良いでしょう。
 われわれ専門家の方としては、未破裂脳動脈瘤の中で破裂する可能性の高い脳動脈瘤をいかにして見極めるかが非常に重要な研究課題であると考えています。


熊本大学講師
医学部附属病院脳神経外科

甲斐 豊