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2010年 「まいらいふ」1月号

虚血性心疾患のトピックス
 心臓が収縮や拡張を繰り返して1日に7トンもの血液を循環させることができるのは心筋(心臓の筋肉)のおかげです。心筋も冠動脈を流れる血液で養われていますが、冠動脈の内腔が狭くなったり詰まったりすると狭心症や心筋梗塞になってしまいます。これらの病気はまとめて虚血性心疾患と呼ばれますが、今回はそのトピックスを取り上げます。

日本人の狭心症の特徴
[図1]

 冠動脈が狭くなると心筋に十分な血液が行き渡らなくなるので、心筋が酸欠状態となり、胸痛や胸苦しさなどの症状があらわれます。この症状は軽いものから激しいものまでいろいろで、どことはいえない広い範囲に感じることが多く、持続は一時的で数十秒から10分くらいで自然に治まり、狭心症と呼ばれます。高齢や糖尿病では、心筋が酸素不足になってもはっきりした症状が出ないこともあるので注意が必要です。この狭心症の原因としては、冠動脈の動脈硬化で血管内腔が持続的に狭くなる場合と冠動脈のけいれん(れん縮、図1参照)によって内腔が一時的に狭くなる場合が挙げられます。日本人では冠動脈れん縮が多く認められます。冠動脈れん縮は突然死の原因にもなり、精神的なストレスと喫煙が引き金となることも知られています。

女性の狭心症は診断が難しい

 狭心症の診断には冠動脈のレントゲン造影検査が有効です。この検査は局所麻酔下でカテーテルを血管内に入れて行うので、入院が必要です。最近はコンピュータトモグラフィー(CT)によって外来でもできるようになりました。しかし、冠動脈れん縮があるかどうかはこのCT検査では分かりません。また、特に女性の場合にレントゲンでは映し出せない小さな血管(微小血管)の障害で狭心症が起こる場合があります。女性の一見正常に見える冠状動脈で狭心症症状があるときにはレントゲンでは見えない小血管の機能を検査することが必要です。
 最近、狭心症のスクリーニング用に簡単な検査が開発されました。虚血性心疾患では、冠動脈の内側を覆っている血管内皮細胞の働きが悪くなりますが、その傾向は全身の血管に見られることがしばしばです。この血管内皮細胞の働きを、指の爪の下の血管を観察する15分ほどの簡単な検査で調べることができるようになりました。指を検査機器(EndoPAT-2000)に付けているだけです。この検査で女性の狭心症を効率よく見つけ出せることが分かってきています。この検査はまだ保険適応ではありませんが、このような検査法が確立されることを期待しています。


心臓にたまった脂肪が 動脈硬化に関係する?
[図2]

 太っている中高年男性は急性心筋梗塞になりやすく、特に「おなかぽっこり」は狭心症や心筋梗塞に関して危険な徴候です。腹部肥満では、皮下脂肪ではなく、内臓脂肪が増えているのがその理由です。この内臓脂肪が心臓を取り巻くようにあることはあまり知られていません(図2参照)。この心臓の周りの脂肪をCTで測ることができるようになり、おなかの脂肪よりも心臓の脂肪増加が早い時期から冠動脈の異常と関係していることが報告され始めました。心臓周囲の脂肪増加が虚血性心疾患やそのほかの心臓病に関係していることがさらに明らかになってくるでしょう。


冠動脈ステント治療後の 注意事項
[図3]

 動脈硬化で狭くなった血管を内側から風船で押し広げ、さらに広げた血管が再度狭くならないように円筒状の金属の網を血管内に入れる治療法がステント療法です。図3のように、ステントを入れた血管は病気のない血管のようにきれいに広がります。最近は薬を塗った特殊なステントも開発され、ますます効果を上げています。
 ただし、ステントは血管の狭くなった一部分に対して行われる治療であり、冠動脈全長の血管を広げるわけではありません。他の部位に血管が狭くなる原因があれば狭心症は起こるのです。日本人の狭心症には冠動脈れん縮が多いことを述べましたが、ステントは局所的な治療なので冠動脈れん縮を完全に防ぐことはできないわけです。冠動脈ステント治療を受けた方で狭心症が再発した場合には冠動脈れん縮が原因のことがあるので詳しい検査が必要です。
 ステントを挿入した後は、血液が固まらないようにする薬を数カ月間飲む必要があります。最近、人種間さらには個人間で薬の効き目がかなり違うことが分かってきました。つまり薬を飲んで血液がサラサラと思っていても、実は効いていない場合もあるのです。原因の1つは、薬を分解する酵素の強さに個人差があることです。遺伝子多型といって遺伝子の一部が個人間で多少違う場合があり、薬を代謝する酵素の遺伝子にこの多型があるため、酵素の働き(活性)に差が生じてしまうのです(お酒に強い弱いも、アルコール分解酵素の遺伝子多型が関与しています)。そのため、同じ薬を同じ量飲んでも効かない人が出てくるのです。これには、あらかじめ遺伝子検査をしておけば対応できます。


冠動脈や手足の末梢動脈の 狭窄(きょうさく)のレーザーを用いた治療

 血管内治療には、風船で拡張したりステントを入れたりするほかに、ダイヤモンドで削る(ロータブレータ)方法もあります。ここで紹介するエキシマレーザ血管形成術はレーザーで血管内を掃除≠キるものです(図4、5、6を参照)。大量の血栓ができている症例や、ステントを入れても何回も狭くなる症例(再狭窄)、冠動脈バイパス術に足の静脈を使用して狭窄した症例などに有効です。
 また、足の動脈が狭くなると、散歩時にふくらはぎが痛くなったり、ひどくなると、足の指がただれたり、黒くなってしまうことがあります。これは末梢動脈疾患といって糖尿病や透析の方に多くみられます。ひざ上の血管では冠動脈と同じようにステントを入れて治療できますが、ひざ下の細い血管にはステントを入れられませんので、このエキシマレーザが非常に有効です。足に対してはまだ保険適応がないのですが、重症の場合は足の切断を余儀なくされますので、早く実施できるように準備を進めています。
 さらに、ペースメーカーという心臓の拍動(脈)を補助する装置を胸から挿入されている方で、電気を流す線(リード)が菌に感染することが非常にまれですが起こります。以前は胸を開いて(開胸術)抜去していましたが、このエキシマレーザにより胸を開かずにできるようになりました。


最後に

 心臓・血管病は現在の死因の3分の1を占めています。今後さらにその原因究明と新たな治療法の開発が期待されます。