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2009年 「まいらいふ」12月号

女性の一生、トータルケアを担う 産婦人科
一般的に、妊娠・分娩(ぶんべん)を担当する専門家としての印象が強い産婦人科ですが、 現在はさまざまな役割を担っています。 今回は、そのそれぞれの領域の医療について、熊本の状況を含めてお伝えします。

3つに大別される 産婦人科診療

 産婦人科では、どのような診療をしているかご存じですか。皆さんがすぐに思いつくのは、妊婦健診とお産でしょうか。実は、産婦人科が扱う領域はもっとずっと広いのです。
 産婦人科はお産を手助けする医術として、医学のどの分野にも先駆けて6000年以上前に始まったのですが、現代の産婦人科診療は周産期医学、生殖医学、婦人科腫瘍(しゅよう)学の3つに大別され、さらにさまざまな副次的な分野があります。高い専門性が求められる現在の医療事情にあっては、産婦人科という大きなユニットの中で最初の診察がなされた後は、それぞれの専門家が検査や治療を行うことになります。産婦人科の扱う3つの領域とその専門性、相互の連携について紹介します。


●周産期医学
 (妊娠と分娩の管理)

 周産期医学とは、妊娠された方が出産するまでを扱う分野です。現在、日本の赤ちゃんの約半分は皆さんの自宅の近くの個人病院で生まれています。お産は病気ではありませんが、思いがけず急変することがあるため、個人病院の先生は地域の総合病院と常に連携しています。
 また、予定日よりも早く、小さく生まれた赤ちゃんや、病気を持って生まれた赤ちゃんを管理するためには新生児集中管理室(NICU)と呼ばれる施設が必要です。熊本県では熊本大学医学部附属病院(熊大病院)、熊本市民病院、愛育会福田病院の3つがNICUを持っています。さらに、NICUはありませんが産婦人科と小児科が併設され、ある程度体重のある赤ちゃんの異常やお母さんの救命救急に対応できる病院として、熊本赤十字病院、国立熊本医療センター、熊本労災病院の3つがあります。
 母児に危険を伴う出産が予想される妊婦さんは、あらかじめお母さんごと前述のような病院に搬送(母体搬送)されることになります。熊大病院では今年度中にNICUを増床しますし、ほかの病院でも対応策を検討していますが、熊本県のNICUは不足していて、いつも満床に近い状況です。このため私たちは県に提案して、今年の4月から前述の病院の間でPHSによるホットラインを作り、頻繁に調整を行っています。この結果、県内で受け入れができず県外搬送される妊婦さんの数は大きく減ったのですが、緊急の母体搬送を受け入れるために、入院中の妊婦さんにやむなく別の病院に移っていただくといったことが時々起きています。大変心苦しいのですが、一人でも多くの妊婦さんを安全に収容するため、病院間の連携にご理解とご協力をいただければ幸いです。


●生殖医学
 (不妊治療とホルモン異常)

 生殖医学には、女性が妊娠することをお手伝いする不妊治療の分野と、女性の性周期の異常を扱う分野があります。前者については、体外受精まで行うことのできる不妊治療専門のクリニックが熊本県内にもいくつかあります。熊本県には体外受精を行う患者さんに対して医療費の一部を助成する制度があるのですが、助成を受けることができるのは県や市が認定した医療機関で治療を受ける方に限られています。また、不妊治療を行うにあたっては、医療技術だけでなく遺伝や倫理についての配慮ができることも求められており、この分野の専門家を認定する制度として生殖医療専門医という資格があります。
 生理不順や生理痛、そして体外受精を必要としない不妊治療については、お産を扱っていないクリニックでも診てもらうことができます。このようなクリニックは更年期障害や避妊指導にも対応しています。治療が進むうちに、より高度な不妊治療が必要と判断されたら、体外受精が可能な施設に紹介されることがあります。
 なお、小学校低学年なのに生理が始まった、高校生になっても生理がないなど、18歳未満での月経異常は、ホルモンを専門とする産婦人科医と小児科医が協力して計画的に治療しなければならない場合が多いので、早めに熊大病院の産科婦人科、小児科あるいは発達小児科にご相談されることをお勧めします。


●婦人科腫瘍学
 (良性疾患と婦人科がん)

 婦人科腫瘍学とは、子宮や卵巣などの良性疾患および悪性の腫瘍を扱う領域です。
 良性疾患、特に若い女性を悩ます子宮内膜症や子宮筋腫の治療では、お腹の小さな切り口から挿入した内視鏡で覗きながら専用の器具を使って行う腹腔鏡下手術が行われるようになりました。このような手術は美容上も好まれ、入院期間も短いのですが、医師が手術に熟練している必要があります。熊本県の公的病院で腹腔鏡下手術を行っているのは熊大病院と熊本赤十字病院で、公的病院以外でも資格を持つ産婦人科医によって積極的に内視鏡下手術を行っているところがあります。
 婦人科のがんの中で、20代、30代の女性に最も多いがんである子宮頸がんは、子宮がん検診によって早期発見しさえすれば子宮の全部を摘出しなくても済むがんです。子宮がん検診は集団検診のほか、県の指定を受けた産婦人科の施設で受けることができます。ただし子宮体がんと卵巣がんは普通の集団検診では発見されない危険性があります。
 がんが疑われた場合には、婦人科腫瘍専門医の資格をもつ医師のいる専門の病院で詳しい検査と治療を受けることになります。がんの手術には高度な技術が求められるばかりではなく、抗がん化学療法や放射線治療などを行うことも多く、現在では個人病院やクリニックで治療を受けることは困難です。がんの治療にあたっては、全国どこでも質の高い医療を受けられるよう各都道府県に「がん診療連携拠点病院」が指定されており、日本国内で共通のガイドラインに沿った診療を行う一方、地域のがん診療連携拠点病院に対する情報提供や支援を行っています。熊本県のがん診療連携拠点病院は熊大病院で、県下の7つの連携施設のうち産婦人科があるのは熊本市民病院、熊本労災病院、熊本赤十字病院、国立熊本医療センター、荒尾市民病院です。


最後に

 例えば、長い不妊治療の末のお産、がんにかかった患者さんのお産、がんを克服した後の不妊治療など、産婦人科というユニットの中で3つの専門分野は互いに強く連携しています。かかりつけの産婦人科医師とよく相談して正確な情報を得た上で、あなたにあった病院を選ぶことをお勧めします。


熊本大学医学部附属病院
婦人科
教授
片渕 秀隆


熊本大学医学部附属病院
産科
准教授 
大場 隆