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2009年 「まいらいふ」10月号

パーキンソン病
パーキンソン病は、ジェームズ・パーキンソンが1817年に初めて報告した病気です。彼の名前にちなんでパーキンソン病と呼ばれるようになりました。 今回は、決してまれな病気ではないパーキンソン病についてお伝えします。

パーキンソン病とは
[図1]

パーキンソン病は、多くの場合、50から60歳代に症状が出始め、ふるえ(振戦(しんせん))、筋肉のこわばり(固縮(こしゅく))、動作が遅くなる(動作緩慢)、倒れやすい(姿勢反射障害)といった症状が見られます。
 脳の病気で、中脳の黒質と呼ばれる部分の神経細胞が変性します。黒質の神経細胞は、ドパミンという物質を脳の基底核にある線条体へ送ることで、さまざまな動作が円滑に行えるよう調整しています。ドパミンが足らなくなると、動作がぎこちなくなり、パーキンソン病の症状が出現してきます。(図1)
 日本では、人口10万人あたり100人、65歳以上では約200人の発症頻度です。人口10万人あたり糖尿病400人、心筋梗塞や狭心症が100人、がんが80人ですので、決してまれな病気ではありません。ただし、伝染性はなく、また、通常は遺伝することもありません。
 現在では、効き目のある抗パーキンソン病薬が何種類も使えるため、症状をなくしたり改善させたりできます。


パーキンソン病の症状
[図2]パーキンソン病の症状

 手、足、頭、体全体がふるえるようになります。左右どちらかが強いのが普通です。動作をしていないとき(安静時)に強くふるえ、動作をする時には消えたり軽くなったりするのが特徴です。1秒間に4〜5回くらいのふるえで、手指に起こるときは丸薬を指で丸める仕草に似ています。


A 筋固縮
 筋肉の緊張が高まっている状態で、自分で気づく症状ではありません。お医者さんが患者さんのひじを曲げたり伸ばしたりすると、ギコギコと歯車のように感じます(歯車様固縮)。

B 動作緩慢
 動作がのろくなる症状です。すべての動作に当てはまり、歩行は遅く、歩幅が小さくなり自然な腕の振りも見られません。これを小刻み歩行と言います。また、最初の一歩がなかなか踏み出せません(すくみ足)。衣服の着脱、寝返り、食事動作など日常生活すべてに支障を来します。

C 姿勢反射障害
 体には、倒れそうになると姿勢を反射的に立て直す反応が備わっています。パーキンソン病ではこの反応が障害されていて、立っているとき、歩いているとき、椅子から立ち上がろうとするときなどに倒れてしまう場合があります。

C その他の症状
 自律神経障害によって、便秘、発汗過多、あぶら顔、立ちくらみといった症状がみられます。まばたきが少なく仮面をかぶったように表情のない顔つき(仮面様顔貌(かめんようがんぼう))、小声で単調な抑揚のない話し方(構音障害)になります。書字にも力がなく小さく、書くにしたがって文字がさらに小さくなる傾向(小字症)があります。


治療法
[図3]脳深部電気刺激療法(DBS)

 中心は薬物療法です。ほかに食事療法、リハビリテーション療法、手術療法があり、最近では遺伝子治療も研究されています。

@ 薬物療法
●Lドパ製剤
L-ドパはドパミンの前駆物質(元となる分子)で、脳の中でドパミンへと変化し、不足したドパミンを補います。ドパ脱炭酸酵素阻害薬(DCI)と組み合わせてL-ドパが脳へ移行しやすいようにした合剤を主に用います。
●ドパミン受容体刺激薬
脳の中のドパミン受容体に直接結合し、ドパミンと同じように刺激を伝達できる作用があります。L-ドパで治療を始めた場合より、合併症の発生を遅らせることができます。
●抗コリン剤
ドパミンが少なくなったため相対的に過剰になったアセチルコリンの働きを抑える薬です。特に振戦(ふるえ)に効果があります。
● ドパミン放出促進薬
ドパミンを放出する神経を刺激して、ドパミンの放出を促進します。
●ノルアドレナリン補充薬
パーキンソン病で不足するノルアドレナリンの前駆物質です。
●MAOB阻害薬
ドパミンを分解するモノアミン酸化酵素B(MAO-B)を阻害し、ドパミンのドパミン神経への再取り込みを阻害します。
●COMT阻害薬
L-ドパを代謝するカテコール-O-メチル基転移酵素(COMT)を阻害することで、L-ドパを長持ちさせる効果があります。


A 食事療法
 薬の効きが悪くなったとき、低タンパク食にすると良い場合があります。タンパク質はアミノ酸からできていますが、ある種のアミノ酸にドパの吸収を邪魔する性質があります。ですから、朝食や昼食はタンパク質を少し制限し、夕食を高タンパク食にするという工夫で薬の効きが良くなることがあります。ただし、自分で勝手に行わず、必ず主治医と相談してください。

B リハビリテーション療法
 パーキンソン病の患者さんにとって大事な治療法です。自分にふさわしい運動を毎日行い、少しずつ増やしていくことが大切です。パーキンソン病では、一般に前屈姿勢となります。鏡をみて姿勢を矯正し、背中を壁に付けて立ってみましょう。次に、腰を伸ばして腕を大きく振るように心がけ、「1、2、1、2」と調子を取りながら歩いてみましょう。速くなりそうになったら立ち止まり、姿勢を正して深呼吸します。足がすくんで前に出なくなったら、その場で足踏みしたり、溝をまたぐ要領で足を出してみると良いでしょう。

C 手術療法(図3)
 原則として薬物療法の効果がないときに行います。一日の中での病状の強弱の違いが非常に大きくなった場合、抗パーキンソン病薬で起こる不随意運動(ジスキネジア)が非常に強い場合、姿勢反射障害などに薬が効かない場合などに手術を考えます。
 脳に電極を挿入し電気刺激を行う脳深部電気刺激療法(DBS)が用いられます。電気刺激の部位によってDBSの効果が異なりますので、症状にそって刺激部位を選ぶ必要があります。


D 遺伝子治療
 2003年にアメリカで治療研究が開始されました。遺伝子を組み込んだアデノ随伴ウィルスを用いて、ドパミン神経の働きを助けようという方法です。日本でも自治医科大学で2007年から遺伝子治療研究が実施されています。ここではL-ドパからドパミンへの変換効率を高める方法が試されています。
 まだまだ一般的な治療法にはなっていませんが、近い将来、治療法の一つとなる日が来ると期待されます。


熊本大学講師
大学院医学薬学研究部
神経内科学分野

平野照之