まいらいふのページ

2009年 「まいらいふ」6月号

COPD(シー オーピーディー)(慢性閉塞(へいそく)性肺疾患) ?COPDは、たばこによる肺の生活習慣病です?
禁煙の重要性が世界中で報じられています。たばこは肺、口、喉(のど)、食道にがんを引き起こすとともに、心臓や血管に障害を起こし心筋梗塞(こうそく)など、さまざまな病気の原因となります。また、肺の組織を破壊してCOPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease=慢性閉塞性肺疾患)を発症させます。今回は、たばこに関連する疾患であるCOPDについてお伝えします。

COPDとは
[図1] COPDの肺・気管支の病態
COPD完璧マニュアル
(監修:北海道大学大学院医学研究科 呼吸器内科学分野 教授 西村正治先生)から引用

 COPDは、たばこなどの有害なガスや粒子を慢性的に吸い込むことによって空気の通り道である気管支に炎症が起き、また、酸素や二酸化炭素の交換を行なう肺胞が徐々に破壊されて、肺が弾力のない紙風船のようになり、息が出入りしにくくなる病気です(図1)。以前は、慢性気管支炎や肺気腫と呼んでいましたが、多くの患者さんに両者が合併していることからCOPDと呼ぶこととなりました。

40歳以上の8.6%はCOPD

 日本人の40歳以上の男女の8.6%、約530万人がCOPDと考えられています。高齢者ほどその率は高くなり、70歳以上では17.4%、つまり6人に1人はCOPDです。しかし、COPDと診断されている人はその1割に過ぎず、大部分の人は自分がCOPDであることを知らないと考えられます。



COPDは
世界の死亡原因の第4位

 COPDは、2005年の世界の死亡原因の第4位でした。2020年には第3位になると予測されています。日本でも、年間1万4000人以上が亡くなっており、2005年の日本の死亡原因の第10位、男性では第8位から第7位となりました。

COPDの症状

 COPDの主な症状は、息切れや呼吸困難です。特に坂道や階段を上り下りする時に息切れを自覚し、進行すると、平地を歩く時も息切れがするようになります。また、慢性的な咳(せき)や痰(たん)、風邪をひいた時や急いで動いた時の喘鳴(ぜんめい)(ゼーゼー)もみられます。さらに進行すると、服を着替えるだけでも息切れがするようになり、酸素吸入が必要になります。
 息切れは、たばこの肺障害による慢性気管支炎や肺気腫によって、空気の出入りがうまくいかず、酸素が血液に移行しにくくなるために起こります。これらの症状はゆるやかに起こってくるため、「年のせい?」と思い込まれることが発見の遅れにつながっています。


COPDの診断と肺年齢
[図2]COPDを疑う場合

 COPDは肺機能検査により診断します。肺機能検査は、息を最大限に吸った状態からできるだけ早く最後まで吐き出す検査です。COPDでは最初の1秒間に吐き出した量(1秒量)が低くなります。
 慢性の咳や痰、あるいは体を動かした時の息切れがある人ばかりでなく、症状がなくても、喫煙の経験のある40歳以上の人はCOPDの疑いがあります(図2)。自分の肺の健康状態が、同性・同年代の人と比較してどの程度にあるか、“肺年齢”が何歳に相当するかを、肺機能検査の結果から評価することができます。“肺年齢”は肺年齢ドットネット(http://www.hainenrei.net/)で調べることができます。COPDが心配な方は、ぜひ、肺機能検査を受けてみてください。


COPDの予防と治療
[図3] 喫煙と肺機能の低下
Fletcher C et al:Br Med J 1:1645, 1977
(フレッチャーら、英国医学雑誌1巻1645頁、1977年)から引用

 COPDに対する根本的な治療法はありません。直ちに禁煙することが最も重要です。しかし、予防や治療は可能な病気です。より早く治療することにより息切れ、咳、痰などの症状を軽減し、健康状態・日常生活を維持、改善することができます。COPDの治療には禁煙、薬物療法、呼吸リハビリテーションなどがあります。


1. 禁煙

 禁煙はCOPDの発症を予防し、進行を止める唯一の最も効果的な方法です。薬剤ではCOPDの進行を止めることはできません。肺機能は25歳を過ぎると徐々に低下していきますが、喫煙はその速度を速めます(図3)。禁煙すると2年以内にその速度は非喫煙者と同等になり、COPDにならないためにはより早期に禁煙することが必要です。また、COPDになってからでも、禁煙により進行を遅らせ、息切れや咳、痰を減らすことができます。
 たばこに対する依存が強い場合は、禁煙外来やニコチン代替療法(ニコチンパッチ・ガム)や内服の禁煙補助薬を利用すると良いでしょう。


2. 予防接種
 インフルエンザワクチンは、インフルエンザ合併によるCOPDの増悪(ぞうあく)を防止することで死亡率を半減させることができ、すべての患者さんが接種することが推奨されています。


3. 薬物療法

 COPDでは、気管支が狭くなり息切れが起きます。このため、気管支拡張薬により気管支を広げて息を楽にする治療をします。また、痰を出しやすくする去痰(きょたん)薬、咳を止める鎮咳(ちんがい)薬なども併用します。重症例では吸入ステロイド薬を併用することもあります。

4. 呼吸リハビリテーション

 呼吸リハビリテーションは、薬物療法を受けていても、さらに上乗せした改善効果があります。口すぼめ呼吸や腹式呼吸などの理学療法や筋力維持・改善などの運動療法、栄養管理といったさまざまな方面からサポートします。


5. 在宅酸素療法

 COPDが進むと体内に十分に酸素を取り込めなくなり、慢性呼吸不全という状態になります。家庭や外出時に持続的に酸素を吸入する(在宅酸素療法:HOT, Home Oxygen Therapy)ことにより生活の質(QOL)を改善することができ、生存率を高めることができます。HOTの利用には一定の条件が必要ですので、専門医にご相談ください。


最後に

 COPDは治療可能ではありますが、完全に治してしまうことは今のところできず、息切れ、咳、痰などと長く付き合わなくてはならない病気です。COPDは禁煙により予防できる病気ですし、早期発見・早期治療によりその後の生活はより良いものとすることができます。「COPDかな?」と思う方、ぜひ、肺機能検査を受けてみて下さい。


熊本大学大学院
医学薬学研究部
呼吸器病態学分野 
講師

藤井 一彦