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医療解説

脳梗塞

熊本大学准教授医学薬学研究部脳神経外科学分野 森岡 基浩、熊本大学講師医学部附属病院神経内科 平野 照之

1 こんな症状・こんな前触れ

 脳梗塞とは、脳の血管がつまることで起こる病気です。血管がつまった脳の場所によって症状は異なります(図1)。脳は、肝臓などのほかの臓器と違って、場所ごとに機能が違うからです。
 最も多い症状は、片方の手足と顔半分のマヒ(半身不随)です。体の片側の手足が思うように動かせないために、急に手の力が抜けて箸をぽろりと落としたり、足がもつれて歩きにくくなったりします。病気のおこる場所によっては、手足のみ、あるいは顔面のみのマヒを起こすこともあります。また、脳の知覚(感覚)を司る場所に病気が起こると、体の片側の感覚が鈍い、しびれるなどの症状が起きます。
 ロレツが回らない、言葉がでない、他人の言うことが理解できない、といった言葉に関した障害が出る場合もあります。舌や唇の運動マヒや、脳の言語中枢の障害(失語症)によって起こる症状です。小脳や脳幹といった体のバランスを調節しているところがやられると、力はあるのに、立てない、歩けない、フラフラするといった症状がみられます。また、片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠けるといった症状も要注意です。こういった症状があると、ついつい目の病気を考えがちですが、それぞれ眼動脈、目を動かす神経、視覚中枢に病気が起こったサインです。
 さらに重症の脳梗塞の場合には意識状態が悪くなることもあります。
 脳梗塞の前触れがある場合が、まれにはあります。上のような症状が出現したあと、30分ぐらいで完全に正常に戻ってしまうもので、一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれています。このTIAの中に、脳梗塞の警告症状である場合が含まれています。しかしながら多くの脳梗塞は、何の前触れもなく突然、上に書いたような症状が出現し、そのまますぐに治ることはありません。ですから上記の症状が突然おこった場合には、脳梗塞であれ、TIAであれ迅速な対応が必要ですので、しばらく様子をみようと思わずにすぐに専門の医療機関を受診するようにして下さい。

2 脳梗塞にならないために

 脳梗塞の多くは、生活習慣病の結果としておこります。不適切な食生活、運動不足、睡眠不足、ストレス過剰、多量飲酒や喫煙などの生活習慣の改善が大切です。脳梗塞を起こしやすい危険因子の中で、最も頻度の高いものは高血圧、糖尿病、それから不整脈の一種の心房細動です。したがって、脳梗塞を予防するためには、これらの危険因子となる病気の治療、また血液を固まりにくくする治療が重要です。
 第一にすべきことは、血圧の管理です。現在の高血圧の基準は140/90 mmHgです。これを超えると脳梗塞を起こす危険性が高くなります。血圧を適正にコントロールするために、食事では塩分をとりすぎないこと、肥満は解消すること、お酒を飲み過ぎないこと、禁煙も大切です。血圧が高くてもほとんどの場合、自覚症状はありません。かかりつけのお医者さんに診てもらって、必要であればお薬を飲んでしっかり血圧を下げて下さい。
 最も恐い危険因子は心房細動という不整脈です。心房細動では、心臓の中で血液がよどんで凝血塊(血の塊)ができてしまい、これが脳の血管に詰まって重症の脳梗塞を引き起こします。熊本では脳梗塞の約3割がこの心房細動を原因とするものです。心房細動は、高血圧や糖尿病と比較すると頻度は低いのですが、高血圧、糖尿病、あるいは何らかの心臓病がある人に心房細動が合併すると脳梗塞を起こすリスクはとても高くなります。このような人にはワルファリンという凝血塊や血栓ができにくくなる薬を飲んで予防に努めてもらいます。

3 でも、脳梗塞になったら

 それでも脳梗塞になってしまったら、どうしたら良いのでしょうか? 
 脳梗塞は最初にお話しした症状が突然起こることで判断しますが、実際はどうしてもびっくりして慌ててしまい、判断が難しいときがあると思います。困った時は、? 顔面のマヒ(笑ったときの顔の動きに、右と左で差がないか)、? 腕の異常(両手を頭の上まで伸ばしたときに片側が下がってこないか)、? 言語の異常(自分の名前を言ってもらい、普段通りの発音ができているか)、を調べてみて下さい。どれか一つでも「おかしい」と思ったら脳梗塞が強く疑われます。この3つを覚えるための標語を作りました。
「笑って ばんざい お名前聞いて 時計を確認、119番」
家族皆さんで覚えておいて下さい。
このような症状があって脳梗塞やTIAを疑ったら救急車を呼ぶことが大事です。あわてずに「いつ、どこで、何をしているときに」起こったか、手短に伝えましょう。症状が軽ければ、家族が車で病院に連れて行くことも可能ですが、途中で気分が悪くなって嘔吐したり、けいれんを起こしたりすることもありますので、万一を考えると、やはり軽症でも救急車を呼ぶほうが無難です。その際とても重要なことは、ご家族の方も救急車に同乗して一緒に病院に向かうことです。脳梗塞には1分でも早く治療を始めたほうが、良い結果が得られるものがあります。ご家族が付き添ってこられると医師が治療の説明を行いすぐに治療が開始できます。
 脳梗塞と診断されると、お薬の治療をすぐに始めます。使用するお薬は脳梗塞の原因によって違いはありますが、基本的には1)血液を固まりにくくすることで凝血塊や血栓ができにくくして、これ以上脳梗塞ができないようにする。2)血液の流れを少しでも良くして、脳梗塞の範囲を最小限にする。3)神経細胞をすこしでも助けて被害を最小限にすることに、分けられます。しかしながらこれらの治療は詰まってしまった血管に再び血液が流れるようになる治療ではありません。
 血液の流れを良くする手術もありますが、脳梗塞になってすぐの時期には脳出血などの危険が高く一般には行いません。むしろ1ヶ月以上経って脳が落ち着いてから、また新しい脳梗塞ができないように予防のために行います。つまり現在の治療の基本は「起こってしまった脳梗塞は仕方がない、でもすこしでも被害を少なくしよう」という治療であると言えます。

4 脳梗塞治療最前線

 2005年10月に画期的な脳梗塞治療薬「組織プラスミノゲンアクチベータ(rt-PA)」が日本でも使えるようになりました。この薬は脳梗塞を起こした血栓を溶かして、脳の血流を回復させる働きがあります(図2)。アメリカではrt-PAを用いることで脳梗塞後に歩いて帰宅できる人を1.5倍に増やすことができたと報告されていますし、日本の試験でも同等の効果が証明されています。ただし、この薬は脳梗塞を起こしてから3時間以内に使わないと効果がありませんし、脳梗塞の患者さん全てに使えるわけでもありません。脳に血流が行きわたらなくなると1分毎に1000万個の脳細胞が死んでいきます。時間が経ってしまうと薬の効果がないばかりか、脳に大出血を起こしてしまうこともあります。患者さんが病院にこられてから実際に治療を開始するまでには準備の時間も含めておよそ1時間を要しますので、以前にもまして早く専門病院を受診して頂くことが大切になっています。
 これまでの脳梗塞治療は、主に守りの治療(症状を悪化させない、合併症を起こさず、早期にリハビリテーションを開始して機能回復をはかる)であったのですが、rt-PAが登場したことで、ようやく攻めの治療(積極的に血流回復をはかる)ができるようになりました。残念ながら現在までのところ、脳梗塞の患者さんの3%程度しかrt-PAの恩恵を受けることができていません。少しでも脳卒中の知識(予防、治療、早期受診の必要性など)を一般市民の皆さんに広めることが必要です。そのような中で2006年の日本脳卒中協会の標語は「1分が分ける運命脳卒中」が選ばれ(図3)、啓発活動が盛んに行われています。

図1
図2
図3