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医療解説

前立腺肥大症の症状と治療受診

熊本大学講師医学部附属病院泌尿器科 和田孝浩

 前立腺肥大症は泌尿器科疾患の中でも最も多いものの1つであり、治療法も多彩であるため、ややもすると医師個人の経験に基づいて診断・治療がなされてきました。2001年には診療ガイドラインが発行され、診療がevidence-based medicine (EBM)に基づいて標準化されることが期待されました。
 ところが実際のところ、泌尿器科医の診療はほとんど以前と変らず、症状・閉塞度・前立腺腫大度を組み合わせて、経験的に前立腺肥大症と診断しています。さらに診療ガイドラインは、この基本概念である症状・閉塞度・前立腺腫大度について、正常域と異常域の区切りさえ規定せず、それらの重要度の扱い方についても言及していません。つまり診断基準が明確でなく「医師免許を有するものが前立腺肥大症と言えば前立腺肥大症という診断となる」のです。事実、多くの前立腺肥大症患者は泌尿器科医以外の医師により診断され、治療されています。
これは、前立腺肥大症治療における画期的進歩、すなわちα受容体遮断剤の発明によるところも大きいと考えられます。α受容体遮断剤は、軽度?中等度の前立腺肥大症患者のほとんどに有効であり、副作用に関しても、内科医がこれまで高血圧治療に使用してきた薬剤だけに、管理しやすいと思われるためです。
 こういう実情の中、前立腺肥大症にも、病態が一般のものと異なり通常の治療ではうまくいかない場合や、悪性腫瘍(膀胱癌・前立腺癌)が潜在している場合があり、患者さんにも診療の相違により混乱が生じているのは事実です。
 そうかといってすべての前立腺肥大症患者を卓越した経験を有する泌尿器科医が診ることにも無理があり、そのため一般臨床家にも分かりやすい診断基準を明確にすることが急務ですが、現段階では実情に即した戦術を模索することの方が重要と考えられます。つまり「前立腺肥大症がどういった症状を有し、どのような場合により専門的な診療が必要か」ということにつき、患者さん・一般臨床家・泌尿器科医が理解を深めることが必要と思われるのです。
それで、最初に症状について触れます。前立腺肥大症では、尿が出にくくなるので、尿を出そうと思ってから実際に排尿するまでに時間がかかります。排尿が始まっても、出終わるまでにかかる時間が長くなります。尿が出て行く勢いも弱くなります。そして尿の線も細くなります。また、1回の排尿で膀胱にある尿のすべては出し切れなくなるため、排尿後、残尿感がありすっきりしません。こうした症状が進むと、尿が出にくくなったり、おなかに力を入れて力まないと、排尿できなくなることもあります。病状がさらに進むと、まったく尿が出なくなることもあります(尿閉)。さらに、肥大した前立腺が膀胱を刺激するため排尿の回数が増え、1日に何回もトイレに行くようになります。特に夜間の排尿回数が増え、何度も目が覚めるようになり、睡眠障害につながることもあります。また、急に尿意を覚える症状やそれに伴い我慢できずに失禁してしまうこともあります。
 次に、どのような場合に、より専門的な診療が必要かということについて述べてみましょう。若いころと比べると「尿が出にくい、勢いがない」は、高齢の男性にとってはごく一般的です。しかし、こうした症状は前立腺癌にも共通しています。そのため、こうした症状を訴えて受診した患者さんの場合には、血液中のPSA(前立腺特異抗原)を測定しています。そうすることで前立腺癌の早期発見ができますので、PSAが異常高値を示した場合や直腸診で前立腺癌が疑われる場合、泌尿器科を受診すべきです。
 さらに、すぐに泌尿器科受診が必要なのは「尿閉」が起こった場合です。尿閉になると膀胱にかなりの尿がたまり、患者さんは苦痛に苛まれることになります。こうした場合や残尿が増えてくると、腎臓の機能にも影響し「腎不全」や「尿毒症」に進み、生命にかかわる危険な状態になるからです。
 最後に、治療の側面から泌尿器科受診が必要な場合を説明します。前立腺肥大症の治療には「薬物療法」と「外科的療法」があります。症状が軽い場合は経過観察を行う場合もありますが、一般に症状が軽度?中等度の場合、薬物療法を行います。さらにこのような薬物療法を行っても症状が取れない重度の前立腺肥大症の患者さんには肥大した前立腺を切除する「手術」が必要になります。このような手術が必要な場合も泌尿器科を受診すべきです。手術が必要な場合の目安として「残尿が100ml以上ある」「残尿が原因で炎症が生じている」「腎臓の機能が低下している」「膀胱結石がある」があります。
 まとめてみますと泌尿器科受診が必要な場合は1.前立腺癌が疑われる場合2.尿閉が起こった場合3. 手術が必要な場合ということになります。

尿流測定:尿の出方
経尿道的前立腺切除術前後の尿道鏡写真・手術前
手術後