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「あれんじ」 2011年6月4日号

【専門医が書く 元気!の処方箋】
ペインクリニックってなに?

 ペインクリニックという言葉を聞いたことがありますか? ペインクリニックとは、痛み(Pain:ペイン)の診療(Clinic:クリニック)を専門的に行うところを指します。今回は、ペインクリニックではどのような症状に対してどんな治療をするのかをお伝えします。

はじめに

 痛みにはさまざまな原因や種類があります。ペインクリニックは、その中でも普段使っている痛み止めの薬が効かない難治性の痛みの治療を行っています。ペインクリニックが得意とするのは、薬を用いての治療(薬物療法)や、針を刺して痛み止めの薬(局所麻酔薬)を注入する神経ブロック療法です。痛みの専門家がそれぞれの患者さんの痛みに合った治療を選択しています。


薬物療法

 怪我や炎症などに伴う痛みには、ロキソニンなどの消炎鎮痛薬がよく効きます。しかし、神経が何らかの原因で障害を受けた場合(例えば手術で神経が切れてしまうなど)に生じる神経障害性疼痛には消炎鎮痛薬は効かないことが多く、ほかの種類の薬を使う必要があります。
 神経障害性疼痛では、触るだけで痛みを感じたり、ビーンと電気が走るような痛みを生じたりなど、普通では経験しないような痛みがあるのが特徴で、通常は痛み以外の症状の治療に使用する薬を痛み止めの薬として使用します。このような薬のことを鎮痛補助薬と呼び、具体的には抗うつ薬、抗てんかん薬などを使います。そのほかに、がんの痛みの治療に使用することが多い医療用麻薬(日常診療で処方される麻薬)を使用する場合もあります。
このように、痛みの種類に合った薬を使用し、さらにはいくつかの薬を組み合わせたりすることで、効果的に痛みを和らげることができます。


神経ブロック療法
【図1】超音波装置を用いた神経ブロックの様子

 神経ブロック療法とは、痛みを感知する痛み神経の末端や痛みを伝える神経線維の近くに針を刺し、神経の機能を一時的に麻痺させる薬(局所麻酔薬)を注入することにより痛みを和らげる治療です。痛みの原因となっている部位で直接治療できるのが利点です。レントゲン画像で骨や関節の位置を確認しながら行ったり、超音波画像で神経や血管を確認しながら行ったりして、より正確で安全に神経ブロックを行う工夫をしています(図1)。

 痛みを感じる神経だけでなく、血液の流れを抑制する交感神経をブロックすることにより痛みが起きている場所への血液の流れを増やし、神経障害の回復を促す治療もあります。
最近では、限局した狭い範囲だけに熱を発生させることができる高周波熱凝固装置を用いることで、周囲の組織に影響を与えることなく目的とした神経のみに熱を加えてブロックする高周波熱凝固法も可能になりました。この方法の場合、神経ブロックの効果を数カ月から1年前後と長く持続させることができます。
 体に針を刺す治療なので、神経ブロックは怖いという印象があるかもしれませんが、適切に行うことで、消炎鎮痛薬の使用量が減り、その副作用を軽減できたり、生活の質(QOL)を向上させたりすることができます。


神経ブロック療法の対象となる痛みや病気

 ペインクリニック外来には首、肩、腰などさまざまな部位の痛みを持った患者さんが受診されます。神経ブロック療法を中心に、具体的な病気や治療法についてご紹介します。


【図2】超音波ガイド下腕神経叢ブロック神経を画像で確認しながらブロックを行える

@変形性頚椎(けいつい)症、頚椎椎間板(けいついついかんばん)ヘルニア

 首には頚椎という骨が7つ並んでいます。頚椎やその間にある椎間板(軟骨でできていてクッションの働きをする)の変形により首や腕に痛みを引き起こす病気が変形性頚椎症や頚椎椎間板ヘルニアです。首を後ろに反ったり、横に曲げたりすると痛みが出ます。このような痛みには星状神経節という首にある交感神経をブロックする方法や腕神経叢(そう)という肩や腕の痛みを伝える神経をブロックする方法を用います(図2)。頚椎の間にある椎間関節という小さな関節に薬を注入する椎間関節ブロックも有効です。

A肩関節周囲炎
 いわゆる五十肩です。腕を上に上げたり、手を後ろに回したりという肩の動きで痛みが出ます。先述した星状神経節ブロックや腕神経叢ブロックでも痛みが和らぎますが、肩関節内に薬を注入する方法がとりわけ有効です。


◎腰や足の痛み

@腰椎(ようつい)椎間板ヘルニア
 腰には腰椎という骨が5つ並んでいます。腰椎の間にある椎間板が後ろに飛び出して、脊髄を圧迫することで腰やお尻、あるいはふくらはぎに痛みが出る病気が腰椎椎間板ヘルニアです。前かがみになると痛みが強くなります。
 治療としては、脊髄を包んでいる硬膜という膜の外側に局所麻酔薬を注入する硬膜外ブロック、痛み神経の細胞本体がある神経根ブロック、ヘルニアのある椎間板の中に薬を入れる椎間板ブロックなどがあります。

A腰部脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症
 脊髄の通り道を脊柱管といいます。腰部の脊柱管がいろいろな原因により全体的に狭くなる病気が腰部脊柱管狭窄症です。歩いているとだんだんお尻や足に痛みやしびれが出てきて、腰掛けて休憩すると症状が和らぐのが特徴です。治療は椎間板ヘルニアと同様に硬膜外ブロックや神経根ブロックを行います。

B腰椎椎間関節症
 ぎっくり腰の10〜20%は、腰椎椎間関節症という腰椎の間にある椎間関節の障害が原因の痛みと言われています。椎間関節内へ薬を注入することで、その診断や治療をすることができます。


◎頭や顔の痛み

@ 頭痛
 頭痛にはさまざまな種類があります。よく耳にする片頭痛などは鎮痛薬による治療が中心となります。予防薬や発作時に使用するイミグランなどのトリプタン製剤で痛みをコントロールします。
 肩こりがひどくなり緊張型頭痛を引き起こしている場合は、首や肩の血流を増やして筋肉をやわらげる目的で、前述の星状神経節ブロックを行うこともあります。

A三叉(さんさ)神経痛
 三叉神経は顔の感覚を伝える神経です。頭の中で血管が三叉神経を圧迫すると顔に激痛が走ることがあります。これが三叉神経痛です。食事や洗顔、歯磨きなどの刺激が痛みを強くします。痛みが強いと、食事や会話もできなくなります。特効薬はテグレトールというてんかんの薬です。内服治療だけでは痛みが取れないときや、副作用のため薬を飲めない場合には三叉神経ブロックを行います(図3)。特に高周波熱凝固法(図4)が有効で、1回の治療で1年前後痛みを抑えることができます。


帯状疱疹(たいじょうほうしん)・帯状疱疹後神経痛

 帯状疱疹ウイルスが皮膚の感覚を伝える神経細胞に感染し、その神経が支配している皮膚の領域に沿って水疱や痛みを引き起こす病気を帯状疱疹といいます。抗ウイルス薬と消炎鎮痛薬が基本的な治療ですが、鎮痛薬だけで痛みが取れない場合には神経ブロックが必要になります。硬膜外ブロックなどを行います。
 帯状疱疹による水疱などの皮膚症状が改善した後にも痛みだけが残ってしまうことがあり、その痛みを帯状疱疹後神経痛と呼びます。抗うつ薬や抗てんかん薬をうまく使うことで痛みを和らげることができます。


がんによる痛みと緩和ケア

 がんの緩和ケアとは、がん患者さんとその家族が持つ痛みやそのほかの体の症状、あるいは心の悩みを病気の早期からきちんと聞いて把握した上で、それらの障害に対する予防や対処を行い、QOLを改善する医療のことです。緩和ケアの対象となるいろいろな障害の中でも、痛みは最大の問題です。
 がんによる痛みには麻薬を使用することが一般的です。麻薬と聞くと、中毒になってしまうのではないかという不安から服用を嫌う方もいらっしゃいますが、痛みの治療として適切に医師から処方された麻薬を使用する限り、中毒になることはありません。また、神経ブロックを用いた痛みの治療を併用することで、必要な麻薬量を減らすことができる場合もあります。がんは、痛み以外にもさまざまな症状を伴います。ペインクリニックでは、不眠、食欲低下、呼吸困難など、がんに伴う痛み以外の症状に関する相談も受け付けています。


最後に
熊本大学医学部附属病院麻酔科
仲西 信乃 医師
日本麻酔科学会専門医・認定医
日本ペインクリニック学会専門医

 痛みは人間にとって、身体的にも精神的にもつらい症状です。神経ブロックはすべての痛みを和らげる魔法の治療ではありませんが、痛みで悩んでいる方がいらっしゃいましたら、一度ペインクリニックにご相談ください。