【専門医が書く 元気!の処方箋】
正しく知りたい「認知症」
近年、認知症に対する社会的関心はますます高まっています。しかし、認知症に対する誤解はまだまだ多く、この誤解が偏見や過度の恐れを生み出しているようです。そこで今回は、認知症と間違えやすい病態やさまざまな認知症、認知症ケアなどについてお伝えします。 |
◎まずは次の3つの質問が 正しいかどうか答えてみてください。 |
Q1年を取れば誰でも認知症になる。 |
「認知症と間違えやすい病態」 |
患者さんが認知症を心配して受診された時、まずその訴えが認知症によるものかどうかを鑑別します。その際に認知症と間違えやすいのが以下の二つの病態です。 |
「治る認知症」 |
認知症には治療により改善するものがあり、その代表が正常圧水頭症です。脳の内部や周囲を循環している脳脊髄(せきずい)液の流れが悪くなり、頭蓋(ずがい)内に髄液が貯留して脳が圧迫され認知症が引き起こされます。正常圧水頭症は、認知症に加えて、歩行障害、尿失禁を伴います。専門医であれば、CT検査1枚で診断は可能です。治療は、頭蓋内に溜まった髄液を抜くための細い管を、頭からお腹に通す手術をします。最近では腰からお腹へと髄液を抜く手術が開発され、脳を傷つけない利点から主流となりつつあります。正常圧水頭症であれば、手術をすればほぼ確実に症状は改善します。正常圧水頭症以外にも治療可能な認知症はたくさんありますので、認知症が疑われれば、早期に病院を受診しましょう。 |
「アルツハイマー病」 |
アルツハイマー病は認知症を引き起こす病気の中で最も頻度が高く、すべての認知症患者さんの半数近くを占めます。βアミロイドという物質が神経細胞に異常沈着し、神経細胞が破壊されることによって引き起こされると考えられていますが、その原因はまだ完全にはわかっていません。 |
「血管性認知症」 |
血管性認知症はアルツハイマー病に次いで多い認知症です。脳神経細胞に酸素や栄養を運んでいる血管が詰まったり(脳梗塞(こうそく))、破裂したり(脳出血)して、脳に血液が送れなくなり、神経細胞が死ぬことによって引き起こされます。一旦死んでしまった神経細胞は二度と生き返りませんので、元通りに治ることは困難ですが、新たに脳梗塞や脳出血を起こさない限り基本的に進行はしません。そのため、背景にある高血圧や糖尿病などの生活習慣病をきちんと治療し、喫煙や過度の飲酒を控えて規則正しい生活を送り、脳梗塞・脳出血を予防することが大切です。また、血管性認知症では活動性の低下が強く現れることが多く、日常的な動作をしないことによる機能低下も伴いやすいので、デイサービスを積極的に活用し刺激を与えれば、症状が改善することも少なくありません。 |
「認知症のケア」 |
認知症になったからといって直ちに何もかもができなくなるわけではなく、ましてやその人の人生が終わってしまうわけでもありません。適切な援助があれば、本人も家族も満足のいく生活が送れるのです。そのためにはケア(介護)が大切となります。 |
「まとめ」 |
近年、認知症患者さんを地域で支える活動が広がりつつあります。また、家族会などの支援グループも増えてきています。認知症患者さんが、慣れ親しんだ環境で安全に、質の高い生活を送ることができるように、認知症に対する皆さんの理解が深まることを期待しています。 |
今回執筆いただいたのは… |
熊本大学医学部附属病院
神経精神科 橋本 衛(まもる)助教 日本神経心理学会評議員 精神保健指定医 精神科専門医 日本老年精神医学会専門医 |